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火曜日。
たまたま用事があって別の部署に移動中、聖羅は同期入社の友人に偶然会った。
同期であっても、部署が違えばそう会うことはない。
彼女に会うのは約一週間ぶりだった。
お互いに挨拶を交わしたところで、彼女の視線が腰に向かう。

「あれ?もしかして腰痛い?」

「うん、ちょっと…」

理由は聞いてくれるなとばかりに曖昧に笑って言葉を濁すと、途端にニヤニヤされた。
彼女は勘がいいのだ。

「ふう〜ん、激しいねえぇ」

「な、何が?」

「ナニがって、愛が」

赤屍の事は話してあるので、正確に何が起こったのかを察したらしい友人は遠慮なく冷やかしてくる。

「あ、そうだ。今日空いてる?」

「んー、特に予定はないけど」

「じゃ、久しぶりに食べに行こうよ、奢るからさ。で、色々聞かせて。その激しい彼氏のこととか」

また後でね、と聖羅の背中を軽く叩いて、彼女はさっさと歩いて行ってしまった。
一人残された聖羅は、引き留めるのも間に合わず、あわあわと赤い顔で辺りを見回す。
幸いなことに、誰にも話を聞かれた様子はなかった。
わざわざ人ののろけ話を聞きたいなんて、まるで理解出来ない。
そう首を捻りながらも、聖羅は自分の仕事を済ませるために目的の場所へ向かった。


「──というわけで、帰りは少し遅くなると思います。先にご飯食べちゃって下さい」

『分かりました。ゆっくりしてきて良いですよ』

ロッカールームで着替えた後、聖羅は赤屍に電話をかけていた。
さすがに昨夜は無理を強いた自覚があるらしく、仕事が終わったら車で迎えに来てくれる事になっていたからだ。

『帰りは電話して下さいね。迎えに行きますから』

「え、ううん、大丈夫ですよ」

あの友人のことだ、迎えに来た赤屍と顔を合わせたりしたら、絶対に余計なことを言われる違いない。

『ダメです』

しかし、赤屍はさらりと却下した。

『今日だって、暫くは、“私”が挿入(はい)っている感触が残っていたでしょう?そんな身体で電車で帰るなんて無理ですよ』

「ななな何言ってるんですかっ!」

思わず電話に向かって叫んでから、聖羅は慌てて声をひそめた。

「もう…変なこと言わないで下さい…!」

『変なこと、ねぇ?』

たっぷりと艶を含んだ声が笑って言う。
まるで耳元で囁かれているようで、首筋から腰にかけてぞくぞくぞくっと寒気が走った。
本当に彼はドSだと思う。

『ですが、事実でしょう?今朝の貴女の様子を見ていて解りましたよ。赤い顔で溜め息をついたかと思うと、脚をもぞもぞ擦りあわせて……』

「赤屍さん…!」

クスクス笑いに続いて、『では、後で電話して下さい』と言って、赤屍は電話を切った。


友人に連れられて行ったダイニングの料理はたいへん美味しかったが、お陰であらぬ場所が気になって仕方なかったのは、勿論不埒な恋人のせいである。

もやしとチャーシューの中華サラダを300gテイクアウトした聖羅は、車の中で涙目で散々文句を言い、優しく宥められた挙げ句、帰宅後はちゃんと責任をとってもらったのだった。


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