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月曜日。
多くの社会人にとっては休み明けにあたる曜日とあって、憂鬱な気分になる日である。

仕事事態はそんなに忙しいものではなかったはずだが、ぐったりと疲れて帰って来た聖羅は、玄関に入るなり敏感に異変を感じとった。
背筋をゾクッと悪寒が走ったのは気のせいじゃない。
以前にも確かこんなことがあった。

「おや、お帰りなさい」

無意識の内に外へと逃げ出しそうになったところで、絶妙のタイミングで赤屍が迎えに出てくる。
コートを脱いだだけでいつものスーツ姿の彼もまた、どうやら帰宅したばかりらしい。

「丁度いい。一緒にお風呂に入りましょう」

そう言って微笑んだ赤屍のモデル顔負けの体躯から漂ってくる、まだ新鮮な血の匂い。
肉食獣の獰猛さが見え隠れする、にこやかな笑顔。
それだけでもう、聖羅はこれから自分の身に起こる事を悟ってしまった。
そして、それを避ける術がないことも。



ぐるぐると。
渦を巻いて赤く染まった水が流れていく。

首筋に顔を埋めている赤屍が、ふうと艶めいた吐息を吐き出した。
乱れた呼気が首筋にあたってくすぐったい。

「は…はぁ……ん、っ…」

なかなか整わない呼吸。
酸素を取り込もうと肺が精一杯活動している。
心臓がどくどくしている。
真っ白な高みへと続く階段は、駆け昇るのは一瞬だが、降りてくるまでには時間がかるのだ。
同じ場所まで到達したはずなのに、赤屍の凶器はまだ硬く、逞しいままだった。

──凶器。
そう、紛れもない凶器だ。
それがびゅくびゅくと自分の胎内で痙攣しながら、たっぷりと子種を撒き散らしているのがわかる。

「──ひどい…」

広い背中に腕を回したまま、ぽつりと呟く。
恨みがましく、けれどもやはり甘ったるい響きが残っている声で聖羅は男をなじった。

「明日も仕事なのに…」

「知っていますよ」

クス、と笑った唇が首筋を軽く吸ってから離れていく。
正面から向き合った赤屍は艶然と微笑んでいた。
濡れた黒髪から水滴が滴る様子がゾクゾクするほど色っぽい。

「だから一回で我慢して差し上げたんです」

貴女もすっきりしたでしょう?
問われて、反論出来ずに口ごもる。
確かに気持ち良かった。
気持ち良かったけれど、それ以上に疲れた気がする。

「良い子ですね。さあ、洗ってしまいましょう」

反論がないのを良いことに、赤屍は手際よく聖羅と自分を洗い始めた。
いつからだろうか。
たぶん、一緒に暮らし始めてからだ。
赤屍が、仕事の内容によっては、依頼を終えた後にひどく気分が高揚するらしいと気が付いたのは。
血を浴びるから狂暴になるのか。
それとも、狂暴だから血を浴びるのか。
それは『卵が先か、鶏が先か』を論じるのと同じくらい難しい。

分かっているのは、過程を楽しめる仕事であればあっただけ、彼の機嫌に比例するようにして欲情するらしいということだけだ。

「食事はどうします?お腹は空いていますか?」

「…少し」

頭のてっぺんから爪先まで洗われた聖羅は、肌からほかほかと湯気を昇らせながら頷いた。
まだ足元が危うい聖羅に手早くバスローブを着せかけた赤屍自身もお揃いのバスローブを着ている。

「では、何か作りましょう。もう時間が遅いですから消化に良いものにしましょうね」

「ん」

ちゅ、とキスを落とされた聖羅は、すっかり諦めきった顔で微笑んだ。


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