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旅行当日。
空は秋晴れ、絶好の旅行日和である。

今回の旅行でもっとも悩んだのは京都への交通機関だった。
車で行けば自由度は高いが、時間がかかる。
飛行機は論外。
恋人同士での旅行でバスというのも味気ない。
結局のところ、修学旅行でもお馴染みの新幹線を使う事になった。

東京から京都までは三時間ほど。
今、聖羅は赤屍と並んで座席に座り、車窓からの眺めを楽しみながらお弁当を食べているところだった。

「駅弁なんて久しぶりです」

「私もですよ。意外と美味しいものですねえ」

などと感想を述べあい、互いのオカズを交換したりと、思ったよりも退屈せずに過ごしている。
車窓から見える景色は、立ち並ぶビルから美しい紅葉の山々へと移り変わり、秋も深まりゆく季節なのだと実感する事が出来た。
新宿にいてはなかなかこうはいかない。

「もうそろそろですね」

窓の外に視線を向けた赤屍が呟いた。
長身を狭い座席に押し込められているせいか、とても窮屈そうに見える。
しかし、聖羅のほうは肩先が触れ合う距離に赤屍がいるという事に幸福感さえ感じていた。
赤屍の綺麗な横顔が近い。
肘掛けに置かれた聖羅の手に上から重ねられた赤屍の手の温もりが今更ながらに動悸を誘う。

「赤屍さんがいつもより近いからかな…何だかドキドキしてきちゃいました」

「おやおや」

整った形をした唇に微笑を浮かべて赤屍が笑った。
窓からこちらへと顔を向けた彼の肩先を、艶のある黒髪がさらりと滑る。
重ねられていた手に力が入り、聖羅の指に自分の指を絡めるようにしてきゅうっと握られた。

「今更嫌がっても逃がしてあげませんよ」

からかう口調で耳元に囁かれ、聖羅はどきんとしつつ辺りに視線をさまよわせる。
幸いにも通路を挟んだ反対側の座席に座るサラリーマンは昼寝の真っ最中で、こちらの様子を気にする様子は無い。
だが、誰にも見られていないとわかっても、頬が熱くなっていくのまではとめられなかった。

「い、嫌なわけじゃ…」

クス、と笑った赤屍の吐息が耳を擽る。
これはもうある意味拷問だ。
赤屍の指がゆるゆると動いて、絡めとった聖羅の指を撫でている。

「そうですか?それなら良いのですが」

赤屍の黒髪が鎖骨の辺りを掠めて、ぞくっとする。
昼時に相応しいとはとても言えない含み笑いが鼓膜を揺らした。

「何しろ、聖羅さんにはこれからもっとドキドキして頂く事になるのですから、ね……今から降参されては楽しみが減ってしまう」

(!?ただの観光旅行じゃないの──!?)

含みのある赤屍の物言いに、聖羅は不安を感じずにはいられなかった。
果たして無事に温泉に入れるのだろうか?

「あの……念の為に聞いておきたいんですけど……温泉旅行、ですよね?」

「ええ。そうですよ。どうしました?今更そんな事を聞くなんて」

「いえ、ちょっと確認しておきたくて……そ、そうですよね、温泉旅行ですよねっ」

「そうですよ。おかしな聖羅さんですねえ」

「だ、だって、赤屍さんが怖くなるようなこと言うから…」

「おやおや」

赤屍によしよしと頭を撫でられている聖羅を乗せて、新幹線は最初の予定通り、京都駅のホームへと滑り込んだ。


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