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続いて女将に案内されて向かった料亭は、渓流の上に渡された橋に設えられた座敷にあった。
貴船名物の川床だ。
いかにも涼しげな風情のそれは夏の風物詩にもなっているが、ライトアップされた紅葉を眺めながらというのも乙なものである。

座敷は掘り炬燵になっていて、渓流から来る冷たい風で客が冷えきらないよう、絶妙な温度が保たれていた。

「私、もみじの天ぷらなんて初めて見ました」

眼下に流れる清流のせせらぎを聞きながら、箸で天ぷらを摘まみ上げる。
さっくりと揚げられた天ぷらは油っこすぎず、サクサクとしていて幾らでも食べられそうだった。

「紅葉を見ながら紅葉を食べるなんて面白いですよね」

「そうですね」

笑顔で相槌を打つ赤屍が取り皿によそっているのはぼたん鍋と呼ばれる鍋で、あらかた具を食べ尽くした後は、ご飯を入れて『おじや』にして食べるのだという。
秋から冬にかけての名物なのだそうだ。

聖羅の前におじやを盛った皿を置き、赤屍は今度はとっくりを手にした。
軽く掲げて見せて、

「一杯如何です?」

「あ…じゃあ、少しだけ」

とく、とく、とく……。
とっくりから御猪口に注がれた日本酒を、聖羅はちびちびと舐めるようにして少しだけ味わった。
ほんの微力なのにたちまち身体が温まる。

「これ結構強いですね。酔っちゃいそう」

聖羅は火照った頬を両手で包み込むようにして笑った。

「酔ってもいいじゃないですか。貴女は酔うと大胆になりますし、私としては大歓迎だ」

ふふ、と含み笑う赤屍に、慌てて首を振る。

「だ、ダメですよ、これから温泉に入るのに…」

「一人で入るわけではないでしょう? 大丈夫、酔って動けなくなったら私が洗って差し上げますよ」

「それもダメー!」

今度は酒のせいではなく頬が赤く火照った。
紅葉もかくやというほどに。

──何だか部屋に戻るのが怖い……
しかし、そうは思いつつも、ドキドキと高鳴る胸が、期待と不安が混じった聖羅の心の内を表しているかのようだった。


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