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「おはようございます、聖羅さん」

「おはようございます、赤屍さん…」

目が覚めると、赤屍さんの腕の中にいた。
飼い猫の毛玉はいつもと同じように掛布団の上で丸くなっている。
昨夜寝た時には一人と一匹だったのは間違いないから、赤屍さんはその後で布団に入ってきたのだろう。
全然気がつかなかった。

「朝食の用意をしますので、その間に支度をして下さい」

「ありがとうございます…」

洗い立ての良い香りがする白いシャツが目に眩しい。
まだ眠くてしょぼしょぼする目を手で擦りながら頷くと、その手をとられて指先にキスをされた。

「寝ぼけていると、貴女を私の朝食にしてしまいますよ」

「起きます!起きました!」

私はきりきり動いて布団から出た。
今更恥じらいも何もない。
えいとパジャマを脱いで着替えれば、赤屍さんはクスと笑って、すぐに朝食の用意にとりかかった。

足元に擦り寄ってきた毛玉を撫でて、洗面所に向かう。
洗顔をしてさっぱりしてから歯磨きをしていたら、早速美味しそうな匂いがしてきた。

この匂いは知っている。

急いで歯磨きを終えて部屋に戻ると、ちょうどテーブルの上に料理が置かれたところだった。
ブリオッシュをたっぷりのミルクに浸して焼き上げた、フレンチトースト。
私の大好物である。

甘い香りに誘われた毛玉がにゃあにゃあ鳴いておねだりをしてくるけれど、こればかりは分けてあげられない。

「貴方はこちらですよ」

赤屍さんが片手で毛玉を掬い上げて、餌皿の前にそっと下ろした。
毛玉がカリカリと音を立てて自分の餌を食べ始めたのを確認してから、私は「いただきます」と手を合わせて朝食を食べはじめた。

「美味しい!美味しいです!」

「それは良かった」

赤屍さんは優雅に紅茶を飲みながら、朝食を食べる私を見守っている。

「食べ終わったらメイクを手伝いましょう」

「ありがとうございます」

赤屍さんはどこで覚えてきたのか、私よりお化粧が上手い。
たぶん女性向けの雑誌を参考にしているのだろう。
ベッドの上だけじゃなく、そんなところでもテクニシャンである。

「髪もセットしますか?」

「お願いします」

ドライヤーとスタイリング剤を手にした赤屍さんによって、私の寝癖がついていた髪は瞬く間に綺麗に整えられていった。

「バッグの中身は確認しましたか?忘れ物はありませんね?」

「はーい」

「車を回して来ますから、待っていて下さい」

「はぁい」

寂しそうに鳴く毛玉を断腸の思いでケージの中に入れて、バッグを手に待っていると、すぐに車が玄関先までやって来た。

「では、行きましょうか」

「はい、ありがとうございます。行って来るね、毛玉」

雨に濡れずに出勤出来るって幸せだなあ。

恋人の有り難さを噛みしめながら、私は赤屍さんの運転で職場に向かった。

今日も一日頑張ろう。


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