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去年保護した猫のツナは夏が苦手だ。
冷房をつけていても、日中は藁で編んだ猫ちぐらに入ったきり殆ど出て来ない。

ちなみに、ツナと命名したのは猫用のツナ缶と一緒に段ボール箱に入っていたからだ。
捨てた人がせめてもの足しにと考えて入れたのだろうが、残念ながら見つけた当時のツナはまだ猫缶が食べられる状態ではなかったため、暫くは子猫用のミルクと離乳食で育てることになった。
成長した今ではすっかり大好物になっているところを見ると、もしかするとあのツナ缶は母猫の好物だったのかもしれない。
そう考えると、ちょっと切ない気持ちになった。

そのツナは、今、お気に入りの猫ちぐらから飛び出して、赤屍さんの足元にじゃれついている。
喉を鳴らしながら赤屍さんの脚に頭をごつんこしたり、すりすりと顔を擦りつけたりと、相変わらずの大歓迎ぶりだ。

「よしよし、良い子ですね」

赤屍さんに抱っこされると、ゴロゴロと喉を鳴らす音が大きくなった。

「ほら、あまり甘えると聖羅さんが焼きもちを焼きますよ」

「や、焼きもちなんか」

「ん?」

「焼きますよ!もちろん!ツナばっかりずるい!」

我慢出来なくなった私は赤屍さんに抱きついた。
二人の間に挟まれたツナは迷惑そうな顔をしている。
私の赤屍さんなんだからね!

「赤屍さん、赤屍さん」

「クス…よしよし、良い子ですねぇ」

あやすような口調で言った赤屍さんがキスをしてくれる。
彼の腕の中にいるツナがにゃーと鳴いた。
駄目だめ、赤屍さんは私のなんだから。
でも、いつまでも抱きついたままではいられない。

「ツナくんはお留守番をお願いします」

ケージに入れると、ツナはにゃあにゃあ鳴き出したが、赤屍さんに撫でられるとすぐに大人しくなった。

「なるべく早く帰って来るからね」

私もツナを撫でるが、知らん顔だ。
この対応の差ときたら悲しくなるほどである。

「では、行きましょうか」

「はい!」

私はすぐに気分を切り替えた。
今日は一週間ぶりに赤屍さんとデートに行く日なのだ。
準備は万端、整っている。

と、その前に。

「すみません、赤屍さん」

「良いのですよ」

ツナがすりすりした赤屍さんの脚にローラーをかける。
毛がついているといけないから、大事な作業だ。

「ツナくんに何かお土産を買ってきましょうか」

「有り難いですけどあまり甘やかさないで下さい。甘えん坊になっちゃう」

「おや、甘えん坊なのは誰かさんと同じではありませんか?ペットは飼い主に似ると言いますからね」

うう…反論出来ない…

赤屍さんは笑って私に口付けた。

「貴女も猫も、とても可愛らしいですよ。とても、ね…」

ツナが甘ったれた声でにゃーと鳴くのが聞こえてきた。
私も甘えて鳴きたい気分だ。

やはりペットは飼い主に似るらしい。


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