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「お待たせしました!『帰ってきたスターどっきりマル秘報告』、恒例の寝起きどっきりのお時間です!本日は麻天狼のリーダー、“ill-DOC”こと神宮寺寂雷先生のお部屋に突撃したいと思います」

私はカメラマンさんを振り返り、しーっと指を口元に立てると寂雷先生が泊まっているホテルの部屋の鍵を開けた。
なるべく音を立てないようにドアを開き、中に入っていく。

遮光性の高いカーテンが閉め切られているせいで室内は暗い。

寂雷先生は二つあるベッドの内の片方で寝ていた。
身体の左側を下にして横向きに眠っている。

すぐ近くまで行っても全く目覚める様子がないので、まずはカメラでじっくり無防備な寝顔を撮ってもらう。
全国の寂雷先生ファン垂涎の映像になるだろう。
私もしばしその美貌を間近で堪能することが出来た。

そろそろ起こそうと伸ばした手をがしりと掴まれる。

「っ!?」

ぐるんと視界が回ったと思った時には、既にベッドの上に引き倒されていた。
そのまま寂雷先生の胸元に抱き込まれてしまう。

「寂雷先生?」

焦って名前を呼ぶが、どうやら寝ぼけているらしい先生の腕の拘束が緩むことはなかった。
それどころか、すり…と頬擦りされて固まってしまう。

「おおお起きて下さい、先生っ!」

カメラが回っているんですよ!
いまこの瞬間も全国ネットで放送されちゃってるんですよ!

慌てる私をよそに気持ち良さそうに眠っていると思っていた寂雷先生だったが。

「………くっ」

突然肩を震わせてクスクス笑いはじめた先生に、私は思わずぽかんとしてしまった。

すると伊弉冉さんが入って来て、大きなパネルを私に向かって掲げてみせる。
そこには『麻天狼からのどっきり返し!』とポップな書体で書かれていた。

「引っかかったね、子猫ちゃん。どっきり返しでした!」

「ええっ」

「びっくりした?」

「しましたよぉ!じゃあ、もしかして先生も?」

「もちろん、というか発案したの先生だから」

カメラマンさんは、と振り返ると、そこには変装を解いた観音坂さんがいた。

「すみませんすみません、俺は反対したんですけど、先生と一二三が」

観音坂さんは巻き込まれたんですねわかります。
状況を把握した私は先生から離れようとしたけれど、何故か先生は離してくれない。

「独歩くん」

早くも部屋を出て行こうとしていた観音坂さんを寂雷先生が穏やかな声で呼び止める。

「映像は全て消しなさい。今すぐに」

「は、はいっ」

あたふたとカメラを操作して観音坂さんが映像を消したのを確認すると、寂雷先生はようやく彼が部屋を出ることを許してくれた。

「それじゃあ、あとはごゆっくり」

急いで出ていってしまった観音坂さんと、ウインクしてドアを閉めて出て行った伊弉冉さんを呆然と見送っていたら、頬に大きな手を添えられて先生のほうを向かされた。
凄艶な微笑を浮かべた美しい顔がすぐ目の前にある。

「私を騙そうとするなんて、悪い子だ」

「ご、ごめんなさい…」

「私の寝顔が見たいのなら、言ってくれればいつでも見せたのに」

言いながら、先生の器用な指がぷちぷちと私の服のボタンを外していく。

「せ、せんせい…」

「悪い子にはお仕置きをしなければいけないね」

そのあと、私がどんなことをされてどんな風になってしまったか。
それはとてもじゃないけど私の口からは言えません。

ただひとつ言えるのは、寂雷先生を騙そうとするなんてよほどの勇者でなければ無理だということでした。


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