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デリカテッセンで買って来たおつまみローストビーフをタレで和えたものをコッペパンに挟み、ラップで包んだものと、よく冷やしたミネラルウォーターを一緒に保冷バッグに入れてきた私は、いま、海に向かって釣竿を垂らしている寂雷先生と並んで座っている。

ちなみに、今日も先生の髪を結わえたのは私だ。
長い髪を後ろで一つに束ねた先生はかっこいい。
いや、いつもかっこいいのだけれど。

「君は釣りは初めてだったね」

「はい、ドキドキしています。どんな魚が釣れそうですか?」

「そうだな…今の時期なら、鯵や鯖、鰯も釣れるだろう」

「わあ、楽しみです!」

「はは、期待に応えられるよう頑張るよ」

と先生は言ったけれど、一向に釣れる様子がない。

そうする内に陽ものぼってきたので、朝ごはんにすることにした。

保冷バッグからコッペパンを取り出し、食べやすいように半分ラップを剥がした状態で先生に差し出す。

「先生、あーん」

「ん」

素直に口を開ける先生がめちゃくちゃ可愛い。
普段の落ち着いた大人の男性といった感じとのギャップに萌えてしまった。

一口齧り、もぐもぐと咀嚼してごくんと飲み下した先生が言った。

「ありがとう。美味しいね」

片手でコッペパンを受け取って本格的に食べ始めた先生を見て、私も自分の分のコッペパンを取り出してかぶりついた。
うん、タレがよく絡んでいて美味しい。

「こうしてのんびり釣りをしていると、日々の疲れが癒えていく気がするよ」

「先生はいつもお忙しいから」

「自分で選んだ生き方だからね。覚悟の上だ」

「先生は偉いですね」

「そんなことはないさ。ただ、君に寂しい思いをさせているのではないかということだけが心配だ」

「私は大丈夫です。先生のお嫁さんになるんですから、覚悟の上です」

「君は強い女性だね。そんなところもとても魅力的だよ」

「あっ、先生、引いてます!」

「本当だ。これは大きいね」

大物がかかったと、釣竿と格闘する先生をはらはらしながら見守る。

「よし、釣れた」

釣り上げたのはカサゴだった。
それにしても大きい。


「今夜はカサゴのグリルにしましょうか」

それからも立て続けに獲物がかかり、クーラーボックスの中には氷と一緒に沢山の魚が入っていた。

「それはいいね。美味しそうだ」

「でも、これだけ沢山あると冷蔵庫に入るかなあ」

「一二三くんと独歩くんにもお裾分けしよう」

「そうですね」

先生が車にクーラーボックスを積み込むのを見て、私も保冷バッグを畳んでしまった。

「さあ、帰ろう」

「はい」

助手席に乗り込んだ私に、先生が微笑みかける。

「君さえ良かったら、少し海辺をドライブしてから帰ろうか」

「いいんですか?」

「氷を入れているから大丈夫だと思うよ」

「ドライブ嬉しいです!」

「よし、出発だ」

ハンドルを握る先生の横顔が美しい。

お魚さん、ごめんなさい。

でも、もう少しだけ先生とのデートを楽しませて下さい。

いつも忙しい先生と一緒にいられる貴重な時間を、少しでも長く堪能したかった。



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