カッシーナのソファに座って長い脚を組み、読書をしている寂雷先生は、まるで一幅の絵画のように美しい。 軽く伏せられた瞳を彩る長い睫毛に、髪の一筋、ページを捲るしなやかな指の先までもが、緻密に描かれた名画の如き完璧な美しさで溜め息を禁じ得ない。 読んでいるのは、最新の術式や病気の治療方法に関する論文などが載っている、お医者様のための医学専門誌だ。 毎月発行されるというそれを先生は定期購読しているのだった。 海外の雑誌なので中身は当然全て英語である。 それを当たり前のようにすらすらと読み進めていく先生はさすがだ。 私はというと、先生の邪魔にならないように静かにお茶の時間を楽しんでいる。 マリアージュフレールのマルコポーロをミルクティーで頂くのが近頃のお気に入りだった。 ほんのり香るバニラと甘くコクのある味わいが特徴的なこの紅茶と出会ったことで、着香茶の良さを初めて知ったと言っても過言ではない。 いつも自宅から容器ごと持って来ていたのだが、先生が買い置きしてくれるようになったので、いまはそれを有りがたく頂いている。 先生の前のテーブルにも同じ紅茶を淹れたティーカップがあるのだけれど、もうすっかり冷めてしまっていることだろう。 「すまないね。もう少しだから」 温かい紅茶を淹れ直そうと立ち上がると、誌面に視線を注いだまま先生が言った。 「大丈夫です。ゆっくり読んで下さい」 私は先生のティーカップを持ってキッチンに向かった。 ケトルでお湯を沸かしながら、先生は本当にお医者様になるために生まれてきた人なのだなとつくづく思う。 ヒプノシスマイクによる回復が可能なのに、それに甘んじることなく日々医術の研鑽を積んでいる寂雷先生は本当に凄い。 一度でも先生の治療を受けたことがある人達は、先生をまるで聖人のようだと語る。 以前、先生にその話をしたら、 「君には生身の男としての私を見て欲しい」 と真剣な顔つきで言われてしまった。 だから、どんなに凄い人だとしても、私にとって先生は世界にたった一人の大切な恋人なのである。 「待たせてごめんね。こちらにおいで」 紅茶を淹れ直して運んで来たら、先生は既に専門誌を読み終えたらしく、両手を広げて迎えられた。 大人しく歩み寄れば、待っていたとばかりに膝の上に抱き上げられる。 先生の綺麗な長い髪がはらりと落ちて来て、唇に何度も優しいキスを落とされた。 「紅茶、淹れ直してくれたんだね。ありがとう」 「ん…」 角度を変えて深く口付けられたせいで、まともに返事が出来ない。 でも、お互いに気持ちが通じ合っているのがわかった。 「先生、また冷めちゃう」 「ああ、じゃあ頂こう」 まだ足りないと言いたげな顔をした先生だったが、私を膝の上に乗せたまま片手でティーカップを口に運んだ。 「私には少し甘過ぎるかな」 「ストレートで淹れてきましょうか?」 「いや、同じ甘いのならば、こちらのほうがいい」 そう言ってキスを再開した先生は、私の後頭部に大きな手を当てて逃げられなくしてしまった。 「んんっ、せんせぇ」 「読書で頭を使ったからね。糖分補給をしなければね」 先生の悪戯な手が服の中に潜り込んできたので、ここからは別のお勉強が始まるようだ。 |