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成人の日の今日、新成人の門出を祝う式典が各地で行われた。
この日ばかりは浦安市民が羨ましい。

今年成人を迎えた聖羅も、今日は地元の式典に参加して、その後ファミレスに場所を移して気の合う同級生達と夕食を兼ねたお祝いをした。
その際ワインを飲んだのだが、いい具合に酔いが回ってふわふわしている。

「その様子では楽しく過ごせたようですね」

聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、街灯の光が届かない暗がりからコツコツと革靴の音を響かせて、黒い影のようなひとが現れた。

「赤屍さん…」

「こんばんは、聖羅さん。新成人おめでとうございます」

「あ、有難うございます」

「そう警戒なさらなくても何もしませんよ。怖いことは何も…ね」

瞳を細めてクスと笑う。
それが怖いんです、と聖羅はごくりと喉を鳴らした。
この人は本当に得体が知れない。

「今日はお祝いをしに来ただけです。これを」

渡されたのは箱の入った手提げ袋だった。何だか高級そうで重みがある。

「貴女の生まれ年のワインをお持ちしました」

「えっ」

「当たり年のものではありませんが、こういうものは記念ですからね」

「えっと…有難うございます」

「お礼ならば、今度お茶に付き合って下さい」

「う……わかりました」

なんてことだ。
これまで必死に避けまくっていたデートのお誘いを受けるはめになってしまった。

「では、参りましょうか」

「え?」

「部屋までお送りしますよ。女性の一人歩きは危険ですからね」

あなたのほうがよっぽど危険ですとはもちろん言えなくて。
結局自宅の玄関先まで送ってもらった。

「あの、有難うございました」

「当然のことをしたまでですよ。おやすみなさい、聖羅さん」

「お、おやすみなさい…」

玄関ドアを閉める。
ドアを閉めてもなお、微笑を浮かべた白い顔が網膜にしっかりと焼き付いていた。
電気をつけ、鍵をかけて息をつく。

大丈夫。もう怖くない。

安心したら紙袋の中身が気になった。
ワインと言っていたが、どんなワインだろう。
高級なワインなんて初めてだからドキドキする。

紙袋から箱を取り出し、開いてみる。
箱の中には、振り袖を模したケースに包まれたワインボトルとグラスが並んで収められていた。

「わあ、可愛い!」

そして高そう。
ベッドに仰向けに転がって着物地に包まれたワインボトルをしばし眺める。

「本当にお茶するだけでいいのかな…」

さて。どうでしょう
と彼ならば笑うだろうか。

ゆっくりと遠ざかっていく革靴の音が聞こえた気がした。


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