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外食、それもちゃんとした店でのディナーなんて久しぶりだ。
今日は元々赤屍のマンションにお泊まりする日だったので服装は問題ない。
職場の化粧室で念入りにメイクを直しておいた。
それでもいざ店内に入り、席に案内されると少し不安だった。

「私どこかおかしくないですか?」

「いつも通り綺麗で可愛いですよ」

「真面目に聞いてるのに…」

「私もいたって真面目ですよ。貴女は誰よりも可愛らしい方だ」

「も、もう、赤屍さん!」

まだお酒も飲んでいないのに頬が熱い。カッカッと火照っている。
対する赤屍は涼しい顔で黒毛和牛のステーキにナイフを入れている。
まるでメスで切るみたいにスパッと切り取った肉を優雅に口にする姿を見て、聖羅は遅れてはいけないと慌ててフォークとナイフを動かした。

「そういえば今日、ここに来る前にビジネスホテルから学生のグループが出てくるのを見ました」

「学生がビジネスホテル…ですか?」

「たぶん遠方から出て来てる学生さんなんだと思います。明日はセンター試験ですから」

「なるほど」

「センター試験懐かしいなあ。なんだか学生時代に戻りたくなっちゃいました」

「貴女が学生に戻ってしまったら、私は犯罪を犯すことになりますね」

「えっ、どうしてですか?」

今でも犯罪者なんじゃ、という言葉はさすがに飲み込んだ。

「未成年の貴女を抱いたら犯罪でしょう」

「んぐっ」

うっかり水を飲もうとしているところだったため、危うく吹き出しかけた。
けほこほと咳き込んでいると、心配そうに「大丈夫ですか?」と声がかかる。

「大丈夫じゃないです…」

「それは困りましたね。これから大丈夫じゃなくなって貰う予定なのですが」

「ん?」

「明日は休みですから、たっぷり、じっくり、と……」

「赤屍さんっ!」

クク、と愉しげに低く笑った恋人が恨めしい。
もちろん大きな声を出したわけではなく、ちゃんと声を抑えての抗議だったが、心配になってキョロキョロと辺りを見回した。
煉瓦の壁を模した仕切りに阻まれて、どうやら他の客には聞かれずに済んだようだ。
ほっとして赤屍に向き直る。

「すみません。久しぶりなので、ついはしゃいでしまいました」

「もう…」

窓へ目を向けると、美しい夜景が広がっていた。
今夜、この夜景の元で様々な想いを抱えて過ごしているだろう人々のことを思った。
あの学生グループはどんな夜を過ごすのだろう。
緊張と不安に押し潰されそうになっていないだろうか。
ちゃんとこの美しい夜景を見られているだろうか。

「大丈夫ですよ。きっとね」

まるでこちらの考えを見透かしたように赤屍が言った。

「それより、貴女は自分の心配をしたほうが良い」

左手に掲げたグラスの中でゆっくりと赤いワインを回しながら。

「自分の身体の心配を…ね」

「…月曜日には仕事にいける程度にシて下さい…」


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