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今年も悪魔の季節がやってくる。

毎年聖羅を悩ませるその悪魔の名前は、“花粉”である。

この時期になるとニュース番組などで花粉予報をやり始めるのだが、花粉が飛散する様子を映像で紹介しているのを見るたび、うわあああっとなってしまう。
ああ、あれを吸い込んで苦しんでいるんだと思うと、ゾッとするやら腹立たしいやらで、つい画面を見る表情が強張ってしまうのだった。

「今からもう憂鬱です…花粉なんてこの世から無くなってしまえばいいのに…」

「それでは植物が全滅してしまいますよ」

くすりと笑った赤屍がよしよしと慰めてくれる。

「可哀想に。毎年辛い思いをしなければならないのは大変ですね」

聖羅はうっうっと嗚咽を漏らした。
ちなみに、赤屍と一緒に炬燵に入って彼に蜜柑を剥いて貰っているところだ。
この運び屋は意外と甲斐甲斐しい恋人なのだった。
つい甘えてしまうのは、自分が甘えん坊だというわけではないはずだ。たぶん。


赤屍の白い指が器用に蜜柑の皮を剥いていく様子を、じっと見つめる。
この男はきっと何かのアレルギーになって思い悩むということはないのだろう。

「赤屍さんも病気になったりするんですか?」

聖羅は身体を捻って後ろに座る男の顔を見上げた。
人形めいた白い顔には薄笑いが浮かんでいる。

「さあ、どうでしょう」

「お薬とかもちゃんと効きますか?」

「どう思います?」

「……………」

これはあれか。やっぱりイメージ出来ないから病気になることもないということか。
もうズルいなどと言うレベルじゃない。

「いいなあ…私も頑張って、花粉症に悩まされる自分をイメージしないようにすれば、花粉症じゃなくなるかな…」

「残念ながら無理でしょうね」

聖羅は顔を両手で覆い、うっうっと嗚咽を漏らした。
ひどすぎる。
銀次達が聞いたら「赤屍さんだから…」で納得してしまいそうな話ではあるが。

「そうそう、薬と言えば、良い薬を知っていますよ」

赤屍が言った。

「薬?」

「ええ。花粉症に効く」

口の中に蜜柑の実をつるんと入れられる。
白い筋まで綺麗にとってあった。
筋には栄養があるらしいが、どうもあの舌触りと苦味が苦手なのだ。


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