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赤屍が予約したレストランの予約時間まで一時間ほど余裕があるため、それまで何処かでお茶をしようということになった。

「ここで良いですか?」

「はい、近いし丁度いいと思います」

赤屍の広い背中を見ながら入っていったのは、全国チェーンの誰もが知っているカフェスタンドの一つだ。
ここならレストランに近いから慌てずに済むだろう。

店内はほのかにあたたかいと感じる程度に暖房が利いていた。
11月を過ぎた今、昼間は長引く残暑の影響でまだ汗ばむくらいの気温が続いているが、朝晩はやはり少し肌寒い。
上着を着てきて正解だったと思いながら、外と店内との温度差に小さく息をついた。
今は暑くも寒くもないけれど、外に出た時に寒く感じるはずだからだ。

「うーん…どうしよう…冷たいのとあったかいのどっちにしようかな…」

「温かい物のほうが良いかもしれませんね。今は大丈夫でも、身体を冷やすと外に出た後なかなか温まらなくて困る事になるでしょう」

「そっか、そうですよね」

確かに、と頷いて改めてメニューを見直す。
そこからは何を飲むかは早く決められた。
むしろ美味しそうなデニッシュやスウィーツの誘惑を振り切るほうが大変だった。
この後レストランで食べるんだからと自分に言い聞かせて我慢したくらいだ。

時間帯が時間帯なので店内は会社帰りと思われる成人の男女ばかりだ。
学生は、聖羅の隣の椅子に座っている中学生か高校生のカップルだけだった。
男の子のほうは何かスポーツをやっているらしく、肩にかけて背負うタイプの大きなスポーツバックを椅子の横に置いている。

「そのアップルクランブルラテ美味しい?」

「うん。アップルクランブルフラペチーノはどう?」

「こっちも美味しいよ」

どうやら彼らは期間限定のアップルクランブルシリーズをそれぞれ注文したようだ。
お互いに注文した物の感想を言い合う二人を微笑ましく見守りながら、ちょっとそれも飲んでみたいかもなどと思ったりもした。

「懐かしいなぁ…私も学生の頃、学校帰りに友達とよく寄ってました」

「こういった店ではありませんが、私も紅茶を飲んで帰る事がありましたよ」

「えっ………………………赤屍さん、学生時代があったんですか……?」

「ええ。私も一応人間ですので」

それはそうだ。
それはそうなのだが、大木の根っこの間から果汁のような赤い汁にまみれてゆらりと立ち上がる全裸の赤屍の姿は簡単にイメージ出来ても、ランドセルを背負ったり学生服を着た赤屍となると、なかなか想像するのが難しい。

「イメージ出来ませんか?」

「い、いえっ、そういうわけじゃ……ただ、ちょっとびっくりしたというか……」

「木の股から生まれたわけではありませんよ」

「もももちろん分かってますよ!悪魔じゃないですもんねっ!」

くすりと笑う赤屍の、細められた瞳と三日月型に歪んだ唇が、美しいけれど、怖い。

クスッと笑う声が何故か横からも聞こえてきて、ん?と隣に目を向けると、あのカップルの男の子のほうが上品に口元を押さえながらクスクス笑っていて、慌てた女の子に窘められていた。

「ちょ、ダメだよ、失礼でしょ!」

「ゴメン。でも可笑しくて…」

「おやおや」

赤屍も正面で笑っている。
可愛い、愛しい、とでも言いたげな眼差しを聖羅に注ぎながら。

赤くなってしまったのを誤魔化すためにカップの中身をごくごく飲んだが、味はよく分からなかった。


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