今年のクリスマスは三連休らしい。 と言っても、土日祝日が休みではない私には全く関係ない話である。 関係あるのは、クリスマス寒波とやらが襲来しているせいで恐ろしく寒い中毎日通勤しなければならないという悪夢の如き現実だけだ。 そんなわけで、毎年ネタで言われる「クリスマス中止のお知らせ」が本当に発表されたら踊り狂って喜ぶぐらいには心が荒んでいた。 年末の追い込みでやつれるし、目の下にはずっと熊が二匹居座り続けているし、肌は荒れるし、お腹は痛いし、この年の瀬になって突然無断欠勤してバックレた新人の穴埋めに駆けずり回るはめになるしで、せっかくのクリスマスムードを楽しむ余裕すらない。 クリスマスに限らず、今年は何だか悪い事ばかりが起こった年だった気がする。 身心ともにボロボロになっているからそう思ってしまうのだろうか。 「はい。これあげる」 疲れきった身体を引きずってやってきたロッカー室で、同僚から何かの封筒を渡された。 彼女は既に帰り仕度を終えていて、メイクも直したばかりのようだった。一目でいつもより気合いが入っていると分かる格好に、ああ、そうか、今日はクリスマスイヴだったとぼんやり考える。 たぶんこれからデートなんだろう。 「何これ?」 「クリスマスカード?」 「なんで疑問系…」 封筒の中身は一枚のカードだった。 サイズはトランプやタロットカードぐらいで、黒衣を着た人物の絵柄が印刷されている。 当然ながらクリスマスカードには見えない。 イラストの下に印字されたタイトルは 「“刃をもつ死神?”」 「この前無断欠勤したまま辞めた子のデスクに残ってたんだって」 「えー?ロッカーもデスクも、残ってた荷物は全部段ボールに詰めて実家に送ったんじゃなかったの?」 「引き出しの裏に貼り付いてたとかじゃない?わかんないけど」 大して興味なさそうな口振りでそう言い、同僚は時計を見た。 「おっと、もう行かなきゃ。引き継ぎやった人に一応渡しておいてくれって言われたんだけど、要らなかったら捨てていいよ」 じゃあねと慌ただしく去っていく同僚を見送ってから、改めて手元のカードに視線を落とす。 何となくそのままゴミ箱に捨てる気にはなれず、とりあえず封筒だけ捨ててカードはポケットに突っ込んだ。 後から忘れ物がないか連絡がくるかもしれないし。 |