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新宿中央公園にいる奪還屋の二人に弁当を差し入れに行った際、子猫が捨てられているのを見つけた。
段ボール箱の中でタオルにくるまれてニャーニャー鳴いている子猫を見て、一番はしゃいだのは銀次だった。

「可愛いねぇ、蛮ちゃん!あ、鮭食べるかな?」

「バーカ、ンなもん食うかよ。よく見てみろ。こいつはまだ生まれてからそんなに経ってねえ。ミルクじゃなきゃ飲まねぇよ」

「そっか…まだ赤ちゃんなんだね」

弁当箱から鮭の切り身を取り出そうとしていた銀次は、蛮の言葉にちょっと寂しげな笑顔を浮かべた。
自分の子供の頃の記憶を思い出したのだろう。
気が付くと無限城にいた銀次は、わけもわからないまま見知らぬ場所に放り出されたせいで不安と寂しさのあまり母を恋うて泣いていた。
その時の気持ちを思い出したのかもしれない。
聖羅が子猫を抱き上げると、銀次はそっと柔らかな毛並みをした背中を撫でてやった。

「ミルクって牛乳でいいの?」

「いや、ちゃんと猫用のを買って飲ませてやらないと腹を壊す──って、お前らその猫どうするつもりだ?」

「どうって…」

「飼うつもりかって聞いてんだよ。責任持って面倒が見れるんなら別だが、ただ構いたいだけなら半端にちょっかいだすんじゃねぇ。一度人間に頼る事を覚えたら、それこそ誰かに保護されない限りそいつは弱って死ぬだろうよ」

聖羅と銀次は顔を見合わせた。
聖羅の家はペット禁止だし、銀次に至っては車が家代わり。どちらも引き取る事は出来そうにない。
蛮がサングラス越しに紫苑色の瞳を細める。

「育てられねえなら放っておけ。運がよけりゃ誰かが拾ってくれるだろ」

「そんな…!」

「このまま放ってなんておけないよ!!」

公園は決して子猫にとって安全な場所とは言えない。
放置すれば弱って死んでしまうのは目に見えているのに、放っておく事など出来なかった。
せめて誰か飼い主になってくれる人を探そうと、聖羅と銀次は電話で波児に許可を取ってから、子猫を喫茶店に連れて行く事にした。
お前らは甘いなどと舌打ちしながらも二人に着いて来たところを見ると、蛮も本当は子猫の事が心配だったらしい。
素直じゃないんだからと聖羅と銀次は笑ってホンキートンクのドアを開けた。


「おや…」

喫茶店のカウンターにいた先客が、クスッと独特の笑みを漏らす。
Dr.ジャッカル──運び屋の赤屍蔵人だ。
彼の姿を見るなり銀次はタレて固まり、蛮は不快そうに顔をしかめた。
二人のどちらにとっても天敵に違いない男だからだ。
こんにちは、と真っ直ぐこちらを見据えてにこやかに挨拶をしてきた赤屍に、聖羅は子猫を抱いたまま軽く頭を下げた。

「可愛い子猫ですね。お名前は?」

腕の中の子猫にチラリと視線を流して赤屍が言う。

「あ、違うんです。この子は私のペットじゃなくて……」

聖羅はこれまでの経緯を赤屍に説明した。


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