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「………クス」

綻んだ唇から漏れ出た笑みに反応したのか、隣の膨らみが「…ん」と小さく呟き、寝返りをうった。
そのままもぞもぞと動き、具合よく収まる位置になったところで、またすやすやと穏やかな寝息が聞こえてきた。

より深い眠りの中に入っていけるように、赤屍はその髪をゆるゆると撫でてやる。

二人分の命を抱える身となってから、聖羅はよく眠るようになった。
以前はあまり寝付きがよくなかったようだが、今では、うつらうつらし始めたと思ったら早くも夢の中…、ということも度々ある。
身体が休眠を必要としているのだ。


赤屍は聖羅を起こさないようベッドを出て、赤いランプが点滅しているスマホを手に取った。
着信履歴からかけ直すと、相手は1コールで出た。

「ええ、血液は問題なく適合したようです。子供のほうも順調ですよ」

ちら、とベッドに視線を送って、また静かに続ける。

「ご協力、心より感謝します──博士(ドクトル)」


通話はそれで終了した。
簡潔に用件を済ませるビジネスライクなのはお互い様だ。
興味の対象にしか関心がないことも同様だ。

そっとベッドに戻り、横向きに寝ている愛しい女を背中側からゆるく抱きしめる。

周到に用意された罠だったのだと、聖羅はいつか気がつくだろうか。

まずは自分の血液を輸血した。
死なれては困るからだ。
人間は弱い。
ならば“弱く”なくなればいい。

貴重な『血』を分け与える事に抵抗はなかった。
血液型の違いは大して問題にならない。
適合するかどうかが一番の問題だった
一度宿主を選んで適合すれば、それはそのままその人物の『血』となる。

赤屍が与えた『血』は聖羅の『血』となり、彼女の身体を巡っている。
そして、聖羅の胎内に在るもうひとつの命にもその『血』は間違いなく継がれていた。
赤屍はその事を感じることが出来る。

聖羅は何も心配する必要はない。
彼女も子も、赤屍と彼の『血』が守り、生かしていくのだから。

だから安心して眠ればいい。


「おやすみなさい、聖羅さん。良い夢を」



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