雨が降っているからと、仕事の帰りに赤屍が迎えに来てくれる事になった。 職場を出て、待ち合わせ場所へ移動する。 驚いたのは、こんな天気だというのに傘を持っていない人が結構な数いたことだ。 そんな人は濡れながら慌てて駅やバス停へと急いでいる。 待ち合わせ場所の喫茶店に着くと、聖羅は飲み物を頼んで人心地ついた。 窓から見える紫や青やピンクの傘はまるで紫陽花のようだ。 そう考えると、こんな雨の夜にも彩りがあっていいのかもしれない。 「お待たせしました、聖羅さん」 「えっ、あっ!」 いつの間にか薄く笑んだ恋人がテーブルの横に立っていた。 窓の外を見ていたから気付かなかったのだろうが、それにしても気配や足音がしなさ過ぎて心臓に悪い。 「びっくりした…」 「今来たところですよ。まあ、声をかけずにじっと見つめていても面白そうではありますが」 「だめです怖いです」 赤屍はクスッと笑い、テーブルに置かれていた伝票を取った。 「だめです悪いです!」 「お気になさらず。お代は後で頂きますから」 それはかえって高くつくんじゃないかと思いながら、レジに向かう赤屍を慌てて追いかける。 「すみません…迎えに来て貰った上にご馳走になって…」 「良いのですよ。私が好きでしていることなのですから」 赤屍は車を喫茶店の駐車場に停めていた。 助手席と運転席にそれぞれ乗り込み、車が動き出す。 突然。 本当に、突然、自分でも驚くほどの愛おしさに胸を押し潰されそうになって聖羅は戸惑った。 愛情を感じる瞬間というのは、本当に予期せぬ時に突然訪れるものらしい。 「赤屍さん」 「何ですか?」 「今日はこの後お仕事ないですよね」 「ええ」 「じゃあ、それなら、うちに寄っていって下さい。…いえ、泊まっていって下さい」 赤屍の視線がちらりとこちらに流れる。 この流し目の色っぽさにはまだ慣れない。 「貴女からのお誘いとは珍しいですね」 「何だか急に、赤屍さんが必要になっちゃったんです」 「そうですか」 前を向いてハンドルを握っている赤屍の横顔に笑みがのぼる。 「では、お言葉に甘えるとしましょう」 ──ああ、ドキドキする。 騒ぐ胸を押さえて、聖羅は息をついた。 頭の中では既にあんな事やこんな事が繰り広げられている。 想像だけで下半身が疼いて、太ももをすり合わせた。 赤屍が横目で見て笑っている。 もう!と聖羅は怒ってみせた。 「こんないやらしいカラダになっちゃった責任とって下さいねっ」 「もちろん、喜んで」 車は真っ直ぐ自宅に向かって走って行った。 |