1日1回 就寝前 ・服用すると強い眠気を感じる事があります。 調剤薬局で薬と共に渡されたプリントにはそう印刷されていた。 睡眠導入剤ではない。 最近になって急に鼻が詰まって寝苦しい夜が続いたため、耳鼻科にかかって出して貰った鼻の薬だ。 本来はアレルギー性鼻炎や気管支喘息の人に用いられる薬らしい。 プリントにもそう記載されている。 「あー、赤いね。ちょっと腫れてる。アレルギーとかじゃないみたいだけど」 診察してくれた医師は鼻と喉の奥を覗いてそう言った。 それから金属製の器具で、とても人には語れないような事をされた後、1分間ほど薬を吸引して診察は終わった。 その結果出された薬がこれである。 既に寝る用意は出来ていたので、プリントを畳んで薬の袋と共にテーブルに戻し、グラスの水で薬を飲み下した。 とりあえずトイレに行ってみたあと、ついにキタ。 本当にキタ。 目を開けているのも辛いくらいの眠気が。 よろよろとベッドに戻り、布団に潜り込むと、びっくりするほど呆気なく眠りに落ちた。 翌朝は気持ち良く目覚めた。 これはいいやと思いながら気分よくベッドから出て、洗面所に向かう。 「あれ…?」 昨日脱いでそのままにしておいた服がない。 探してみると、洗濯ネットにきちんと畳んで入れられていた。 「おかしいなぁ…」 昨日はぐらぐらした眠気に襲われた後、首筋に手刀を入れられたみたいに一気に眠ってしまった。 ちょっと記憶が曖昧だったから、たぶん自分で入れたのを忘れていただけだろう。 「…ん?」 ご飯が炊けている。 炊飯器のセットを忘れた気がしていたのだが、気のせいだったようだ。 一食分パックにしてあったオカズを温めてご飯と一緒に食べ、吊るしてあった服に着替えて家を出る。 一日のスタートだ。 「……おやおや」 男は思わず苦笑を漏らした。 「そんなに無防備で…困った人ですね」 パジャマを畳んで洗濯ネットに入れ、他の洗濯物と一緒に洗濯機に入れてスイッチを押す。 その間に朝食に使った食器を洗って布巾で拭き、棚に戻しておいた。 聖羅が明日着るだろう服をハンガーに吊るし、しっかりと鍵を掛けて部屋を出る。 あの様子では、きっと今夜も気付かない。 昨日はキスだけにしておいた。 でも今夜は── 「どこまでしたら気づくでしょうね」 それもまた楽しみだ。 赤屍はクスッと笑うと、コツコツと革靴の音を響かせて建物と建物の間の路地の闇の中へと消えて行った。 |