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あんなに厳しかった冬の寒さが今ではもうよく思い出せない。
頭も身体も完全に夏へとシフトチェンジしてしまったようだ。
冬の間毎日心待ちにしていた過ごしやすい春はあっという間に過ぎ去り、今は早く秋にならないかななどと考えている。

「赤屍さんは暑くないですか?」

「この程度の気温なら何ともありませんよ」

赤屍は見るからに涼しげな様子で本を読んでいる。
聖羅は後悔した。
聞いた自分が馬鹿だった。
人外に近い存在のこの男が暑がる姿は想像出来ない。
そして、想像出来ないものは存在しないらしいので、赤屍蔵人は暑さとは無縁なのだ。
言われてみれば、あの暑そうな黒尽くめの仕事着で汗びっしょりにならないのだから、やはり暑くはないのだろう。

「うう〜……」

「最近、かなりお疲れの様子ですからね」

一気にぐったりした聖羅を見て赤屍が笑う。

身体がだるく、疲れやすくなっている自覚はあった。
夏バテには少し早い気もするが、自分ではどうしようもない。
不規則な生活をしているわけでもなく、ちゃんと体調管理をしてもこれなのだから。
全部暑さが悪いのだ。
特に湿度。

「湿度が高いせいでだるいと思うんですよね。足なんてむくんじゃってもうパンパンだし…」

「では、少しマッサージして差し上げましょうか」

「わーい!赤屍さん大好き!」

聖羅はマッサージジェルを取りに走った。

寝室に移動し、ベッドにうつ伏せに横たわると、赤屍の手が軽く足を撫でた。

「むくんでますね」

「むくんでるんです」

雑巾みたいに足を絞ったらジャーッと水が出てくるんじゃないかと思うほどむくんでいる。

「リンパが滞っているせいでしょう」

むに、むに、とふくらはぎを指で押しながら赤屍が言った。
聖羅としては、もう全てお任せしますという心境だ。

「では、始めましょうか」

優しく撫でるようにマッサージジェルを塗られるだけでうっとりしてしまう。
誰かに触って貰うのはどうしてこんなに気持ち良いのだろう。
それが好きな人なのだから余計に快感に感じるのかもしれない。

全体にジェルを広げると、赤屍はまず足の指の間を指で揉み解すことから始めた。
左から右へ指と指の間を順番に揉み解していく。

次は土踏まず。
親指の腹の部分でグイグイと押して刺激される。
これは最初ちょっと痛いのだが、だんだん気持ち良くなっていくのだ。

「いっ…ぅぅッ」

「痛いのは初めだけですから」

「んっ、んっ…は…ぁっ…」

「ほら、気持ち良くなってきたでしょう?」

「ん…」

その言い方がエロいと感じてしまうのは、やはり自分がいやらしいからだろうか。

グリグリされると痛気持ちいい。
ああ、リンパが溜まってるんだなと思う。
それが段々解れてくるから気持ちいいのだ。



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