猛暑は一休み。 テレビの天気予報のコーナーで出ていたテロップの言葉だが、まさしくその通りだと思った。 過ごしやすいと言い切るのは躊躇われるものの、昨日までの酷暑に比べればずっと良い。 聖羅は今日は一日家でのんびり過ごすと決めていた。 販売・サービス業の悲しい宿命で、世間が休みの時は仕事のため、昨日までは猛暑の中ずっと働きづめだったのだ。 世の中が、海開きだ、プールだ、と夏らしいイベントに繰り出すのを横目にせっせと働く。 自分で選んだ仕事とは言え、辛い時は辛い。 特にこんなクソ暑い真夏の時には。 かと言って、たまの休みには疲労と暑さでぐったりしてしまって、とても何処かへ出掛ける気になれない。 「それで、テレビで京都の川床の中継を見ながら部屋でまったり、ですか」 「ひっ!」 「こんにちは、聖羅さん」 人形めいた白い顔が薄笑いを浮かべている。 いつの間に侵入したのか、赤屍蔵人がすぐ目の前に座っていた。 「ど、どこから入ったんですかっ!?」 「玄関からですよ。声をかけたのですが、丁度開いていたもので」 「不法侵入!」 美貌の運び屋はクスッと笑って、コンビニの白いビニール袋を差し出してみせた。 「差し入れにアイスを買って来ましてね。チョコレート専門店のコンビニ限定コラボ商品だという新作の、」 「ようこそいらっしゃいました」 高級アイスに目が眩んだ聖羅は、すぐに麦茶を用意してお客様をもてなした。 麦茶とアイスってあまり合わない気がするが、アイスの甘さを消してしまわないので丁度良いのだ。 赤屍蔵人は白皙に汗の一粒さえ浮かべず、優雅に麦茶を飲んでいる。 アイスはとても美味しかった。最高だ。 「美味しいですか」 「美味しいです!」 「それは良かった」 テレビはまだついたままなので、それをBGMに二人でアイスを食べる。 薄い唇が甘く開き、スプーンに乗せたアイスを口に含んで、ちらりと赤い舌が覗く。 エロい。 アイスを食べるだけでこんなにいやらしい人はじめて見た。 「こっちも一口食べますか?」 「えっ」 「はい、あーん」 つられて開けた口にスプーンが入ってくる。 歯に当たって小さくカチッと音を立てたそれは、冷たくて甘いアイスだけを中に置き去りにして出て行った。 「口移しのほうが良かったですか?」 「なななに言ってるんですか!」 「物足りなさそうな顔をしていらっしゃったので」 「してません!」 クスクス笑うこの男はいつまで居る気だろう。 ああ、でも、嫌じゃないと思ってしまっている自分がいる。 体温低そうだし、彼がいると体感温度が下がるから丁度良いのだ、きっと。 そう自分を納得させて、もう一度スプーンを近付けてきた彼に向かって素直に口を開いた。 たまには誰かに甘えたい時もある。 |