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今日だけで、いったい何度抱かれただろう。
ようやくはっきりしてきた意識で、そんな事を考える。

突然拉致されて、そのまま好きなように弄ばれて。
まるで悪夢のような出来事だが、身体中についた赤い痣と下肢の違和感と気怠さがこれが現実だと知らしめている。

取り替えたばかりの清潔な黒いシーツが敷かれたベッドの上に身体を横たえたまま天井を見上げる。
ようやく行為の熱が引いたのはいいけれど、気怠さで何もする気になれなかった。

聖羅を捕まえて好き放題にした男は今は室内にいない。
ホットタオルで丁寧に聖羅の身体を拭って清めた後、部屋を出て行ったきりだ。


(…チョコをあげていれば良かったのかな…)


今更ながらに後悔がわき起こる。
バレンタインだからとチョコを受け取りに来た赤屍から聖羅は逃げ出した。
そして何秒も経たない内に捕獲されて拉致されたのだ。
その結果がコレである。
後悔しないわけがない。

「チョコがないなら聖羅さんを頂くしかないですね」

そう笑って、赤屍は聖羅を──


「お待たせしました」


ドアが開き、赤屍が戻ってきた。
手には何かが乗ったトレイを持っている。
もう片方の手には薔薇の花束。

「よしよし、怖くありませんよ」

びくっと身体を跳ねさせて震えはじめた聖羅の傍らまでやって来て、ベッドに腰掛ける。
すぐ目の前に差し出されたトレイの上には、ハート型のチョコレートケーキが乗っていた。
見るからに焼きたてのそれはこんな状況であるにも関わらず、美味しそうだと感じてしまうほど美味しそうだった。
甘い良い香りがする。

「バレンタインは女性から男性に愛を告白するだけの日ではありません。海外ではむしろ男性が女性を花束やディナーでもてなすのが一般的です」

「…男性が…」

「ええ。ですから、今日は私が聖羅さんをおもてなししようと思いまして」

ケーキを焼いてみました、と微笑む赤屍を、聖羅は青ざめた顔で見上げた。

「さあ、どうぞ。遠慮なく召し上がって下さい」

私の愛を。

そう言われて、じっと切れ長の瞳に見つめられる。

怖い。
逃げたい。
でも逃げられない。

赤屍が見守る中、聖羅はのろのろと腕を上げてフォークを手に取った。
フォークを使ってケーキの端を小さく切り取り、口へ運ぶ。
どうしようもなく手が震えた。

「どうですか?」

「美味しい…です…」

チョコレートケーキはびっくりするぐらい美味しかった。
市販のものと言われても納得の完成度だ。
こんな状況でなければ喜んで食べただろう。

「私の愛を受け入れて下さって、とても嬉しいですよ」

赤屍の嬉しそうな声が聞こえる。
聖羅は無心でケーキを食べ続けた。

ただ、手の震えだけがどうしても止まらない。

手が震えるせいで口の端についてしまったチョコレートを、赤屍の生暖かい舌が愛しげに舐め取った。

「ハッピー・バレンタイン。愛していますよ、聖羅さん」


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