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テーブル席のひとつに、赤屍蔵人と向かい合ってちょこんと座り、ホットケーキを食べる少女。
その少女に、喫茶店の店内に居た者達の視線は釘付けになっていた。

ミルク色の肌に、花びらのように可憐な桜色の唇。
ほっそりした手足。
細くても決して棒きれのような硬質さはないそれは、女性特有の曲線とも呼ぶべき柔らかさがあった。
手足だけではなく全体がそうなのだ。
小さくて、細くて、でも柔らかい。

「美味しいですか?聖羅さん」

「うん!」

その会話によって呪縛が裁ち切れたように、まずは蛮が口火をきった。

「まさか、お前にそんな趣味があったとはな」

「何を勘違いしているのか知りませんが、私にそういった趣味はありませんよ。育ちきっていない果実を食べるなんて勿体無いマネが出来ると思いますか?」

「知るかよ。自分好みに育つまで待つってんなら、どっちにしろ変態に変わりはねぇだろ」

吐き捨てた蛮は、いつものように煙草を咥えようとして、少女を見、苦い顔つきでまた煙草をポケットにしまいこんだ。
それを横目で見ていた赤屍がクスッと笑う。

「貴方にそんな気遣いが出来るとは思いませんでした」

「うるせぇよ」

チッと舌打ちして頬杖をついた蛮は、カップに残っていたブルマンを飲み干した。

赤屍蔵人がホンキートンクに連れて来た少女は、まだ幼女と呼んでも差し支えないほど幼い年齢のこどもだった。
そう、まだ子供なのだ。
夏実などは素直に可愛いと喜んで相手をしていたが、蛮は複雑な想いだった。
赤屍が少女を見る目付きが気に入らない。

まるで、いずれは食べるために丁寧に手間暇かけて育てている家畜を見るような──それは捕食者の眼だった。

「食べませんよ」

まるで蛮の考えを読んだかのように赤屍が笑う。

「まだ、今のところは……ね」

まだ幼い少女を自分好みに育てあげた挙げ句に喰らうつもりでいるのだ、この魔人は。

何も知らない少女は美味しそうにホットケーキを頬張っている。
他人事ながら、蛮は少女が哀れで仕方なかった。

「蔵人さん、大好き!」

「私もですよ。愛しています」

波児が読んでいた新聞を思わず力が入り過ぎて破き、蛮が握っていたコーヒーカップの持ち手がパキンと音を立てて取れた。

「大きくなったらお嫁さんにしてね!」

「ええ、もちろんです」

だから、早く大きくおなりなさい。

蕩けるような甘い微笑を浮かべる運び屋を見て、銀次が震えた。

どうやら運び屋の紫の上計画は順調に進行しているようだ。


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