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赤屍に夕食に誘われた。
昼休みにメールが来ていたのを見つけたのだ。
もちろんすぐに返信した。
楽しみが出来た事で午後の仕事も頑張ることが出来た。

「すみません、お待たせしました」

「いえ、先ほど着いたばかりですよ」

待っていてくれた赤屍に頭を下げて合流する。
彼はいつもの“仕事着”ではなく品の良いスーツとコートを着ていて、以前聖羅がプレゼントしたネクタイを身に付けてくれていた。
道行く人々が振り返るほどカッコいい。

その赤屍が案内してくれた先は、大通りから一本路地に入った所にある一軒の洋食屋さんだった。
もう近くに行く辺りから食欲をそそる美味しそうな匂いがしている。

「赤屍さんがこういうお店って意外な感じがします」

「そうですか?」

「もっとこう…何というか…」

上手く説明出来ずにいると、クスッと笑った赤屍に「とりあえず入りましょう」と誘われた。
それもそうだ、と赤屍に導かれるまま店内に入る。

中はこじんまりとしていて、いかにも美味しい洋食屋さんといった感じの雰囲気だ。

「いらっしゃいませ。お二人様ですか」

「ええ」

「こちらのお席へどうぞ」

窓際のテーブル席に案内され、赤屍と向かい合って座る。
すぐに水のグラスとメニューが出て来た。

「うわあ、どうしよう、どれも美味しそう…!」

「お勧めはビーフシチューですよ」

「うう〜ん…じゃあ、それにします!」

オムライスやハンバーグの誘惑を断ち切るのはかなり意思の力を必要とした。
「また今度一緒に来ましょう」と赤屍が言ってくれたから、何とか誘惑を振り切れたようなものだ。

「お待たせしました。特製ビーフシチューでございます」

待つこと暫し。
ぐつぐつと音を立てているビーフシチューが運ばれてきた。
お肉はもちろん、人参やジャガイモなどの野菜がゴロゴロ沢山入っていてとても美味しそうだ。

「いただきます」

「いただきます」

二人で唱和してスプーンを手に取る。
シチューの海に浮いたお肉が、もう…。
しかし、まずは野菜からだと自分に言い聞かせて人参から食べることにした。

「あつ、熱、でも、美味しい!」

「美味しいですね」

ものを食べる赤屍蔵人というのは貴重な画だと思う。
特に、運び屋としての彼しか知らない者にとっては。
そんな貴重なショットが日常の一部になりつつあることに、聖羅は密かな優越感を感じていた。

「これは実に良い肉ですね。舌の上で柔らかく蕩けて…」

「!!」

聖羅は我慢出来ずに急いで肉を口に運んだ。
文字通り、蕩けそうな舌触りがたまらない。

「…………クス」

美味しそうにビーフシチューを食べ進める聖羅を、赤屍は優しく微笑んで見守っていた。
これもまた最強最悪の運び屋と名高い赤屍蔵人の貴重なワンショットである。
そして同時に、彼の愛しい恋人との日常のヒトコマでもあった。


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