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週末を利用して引越しを敢行した。
と言っても、大きな荷物は先に移動してあったので、後は普段よく使う細々した物と人間が移動するだけだ。

手荷物だけを持って車でやって来たそこは、郊外の一軒家だった。
木々に囲まれた瀟洒な外見の建物と、大型犬が自由に走り回れそうなほど広い庭。
有名な別荘地に程近い場所とあって、流れる空気もどことなく緩やかなものであるように感じられた。
周りを木々に囲まれているせいかもしれない。

「さあ、聖羅さん」

「はい」

赤屍に促され、手にしていた家の鍵を鍵穴に差し込む。
ちょっとしたセレモニーみたいなものだ。
テープカットをするように、新しい家を初めて自分の鍵で開ける。
以前赤屍が住んでいたマンションの合鍵も貰っていたけれど、これは『二人の家の鍵』なのだ。
そう思うと感動も一潮だった。

「うわあ…!」

開いた扉から建物の中に入ると、聖羅は更にテンションが上がるのを感じた。
何度も下見に来ているはずなのに、何だか新鮮な気分で室内を見回す。

玄関ホール(“ホール”だ、本当に)は映画やドラマに出てくる邸宅のそれのようだし、すぐ横のドアから入った場所には、それこそ友人知人を招いてホームパーティーが開けそうな広いリビングがある。
女の子から成人女性まで、誰もが一度は住んでみたいと思う立派な家だ。

「完全防音ですから、助けを求めても外には聞こえませんよ」

「ちょ、怖い言い方しないで下さい!」

「クス…」

同居人が同居人なので、映画は映画でもホラー映画の舞台かもしれないとちょっと思ってしまった。
実際に怪奇現象が起こらない事を願うばかりだ。
怖いものは存在がホラーな恋人だけで充分である。

「まずは部屋に荷物を置きに行ってはどうですか」

「そうですね、そうします」

「では、終わったら降りて来て下さい」

「はーい」

聖羅はスキップしそうな足取りで二階へ続く階段を上がって行った。

新しい家。
新しい生活。

丁度仕事が大変で辛かった時期ということもあり、何処か遠くへ連れ去って欲しいと願う気持ちが心の何処かにあったのだと思う。
そんな逃避願望を彼は一番幸せな形で叶えてくれたと言える。

「聖羅さん」

振り返るとドアの所に赤屍が立っていた。

「少し早いですが夕食にしませんか」

そう言って車のキーを見せる。
聖羅に断る理由はなかった。


目的地に到着したのは車で10分ほどのこと。
雰囲気の良いレストランだ。
窓の外には森林の緑が広がっている。
観光客や別荘に滞在している客が来るのだろう。

聖羅は赤屍とともにディナーを楽しんだ。

コースももうすぐ終わりという頃、テーブルに運ばれてきたのは

「ケーキ?」

「今日はバースデイでしょう」

赤屍がワイングラスを軽く掲げながら笑う。

「お誕生日おめでとうございます、聖羅さん」

「有難うございます!」

どうかこの幸せがずっと続きますように

そう願いながら聖羅は蝋燭の炎を吹き消した。


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