綺麗めの服を着てきて良かった。 仕事帰りにパウダールームでメイクを直しながらつくづくそう思う。 今日は買ったばかりの夏服で出勤したのだがちょうど良かった。 お昼休みに赤屍から届いたメール。 そこには、久しぶりに飲みに行きませんかというお誘いの言葉が綴られていたのだ。 バーでデート。 久しぶりなので嬉しいし、ドキドキする。 「………よし」 髪や服に乱れがないかチェックしてパウダールームを出る。 少し急ぎ足で待ち合わせ場所へ行くと、赤屍はもう待っていた。 「赤屍さん!」 「お迎えに上がりましたよ、聖羅さん」 優雅な微笑に迎えられて胸が高鳴る。 「では行きましょうか」 * * 赤屍にエスコートされて訪れたのは、お洒落なダイニングのテラス部分に併設されたバーだった。 リゾート風の造りになっており、真ん中には水中からライトアップされたプールがある。 そのプールサイドにテーブル席が並べられているのだ。 ランプの明かりに照らされたテーブルにつき、注文したのはフローズンカクテル。 外だから暑いかと思い頼んだのだが、水辺を渡る風に吹かれながら飲むお陰で、ちょっと涼しいぐらいだ。 「素敵なお店ですね」 「気に入って頂けたのなら良かった。お誘いした甲斐があります」 「赤屍さんはここよく来るんですか?」 「いえ、今日が二度目です。以前仕事の打ち合わせでここを指定されましてね。貴女をお連れしたいと思ったのですよ」 「誘って貰えて嬉しいです」 カクテルは美味しいし、ムードも満点だし、言うこと無しである。 大人の男女のデート場所としては最適と言えるだろう。 「帰りのことなのですが」 ほろ酔いでいい気分になってきたところで赤屍が言った。 「貴女もご存知の通り、ここからだと私の部屋のほうが近いのです」 「あ、そうみたいですね」 「ですから、私の部屋に来ませんか?」 テーブルの上でグラスを包んでいた手の上から大きな手に包み込まれる。 「あ、明日も仕事が…」 「私の部屋から出勤すればいい。車で送っていきますよ」 「き、着替えとか…」 「この前買い置きしたものがあります」 ねえ、良いでしょう、と誘惑されて頭がぐらぐらした。 酔いも手伝って甘い誘惑に心が簡単に揺らいでしまう。 「ね、聖羅さん。良いですよね?」 思わず首が縦に動いていた。 「有り難うございます。嬉しいですよ」 頬がかっかと火照る。 この先の甘い夜を期待して下腹部の奧がきゅんと疼いた。 「優しくします」 カクテルよりも甘い囁きにまっ逆さまに落ちていく。 これは酔いのせいではない。 この美貌の男の魔力だ。 分かっていて抵抗出来ないのだから困ったものである。 とりあえず手始めにワインの味のするキスを求めた。 |