やはり降ってきた。 夕方になって雨が降り始めるという天気予報は大当たりだった。 まだ大したことはないが、これから本格的に酷くなってくるはずだ。 傘をさして歩く人々を見ながら待ち合わせ場所へと急ぐ。 そこには既に見慣れた車が止まっていた。 慌てて駆け寄れば、内側からドアが開かれる。 「蔵人さん!」 「濡れませんでしたか?」 「大丈夫です。すみませんわざわざ迎えに来て頂いて」 「お気になさらず。さあ、早く中へ」 促されて車に乗り込むと、横から伸びてきた手によって素早くシートベルトを着用させられた。 それに礼を言ってようやく息をつく。 バンと閉まるドア。 「大好きです」 思わず口をついて出た言葉に、車を発進させた赤屍はクスッと小さく笑ってみせた。 「私は愛していますよ、聖羅さん」 「わ、私もっ」 顔が熱い。 両手で頬を押さえると、またしても隣から忍び笑う声。 余裕の違いが恥ずかしくて、何か話すことはないかと焦りつつ話題を探す。 「こ、今年は暖冬になるみたいですね」 「そのようですね」 「でも、やっぱり着る毛布は欲しいなあ」 着る毛布とは、今年の冬に買おうと目をつけていた品である。 お休みの日にまったりするのにちょうど良さそうだ。 「そんなものがなくても私が後ろから抱きしめて暖めて差し上げますよ」 「えっ…どうしよう、それはそれで嬉しいです」 「貴女が望むならいつでもそうしてあげますよ」 毛布も捨てがたいが、恋人からの申し出も魅力的だ。 「貴女はもっと甘えていい。遠慮などせずもっと甘えて下さい」 「蔵人さん…」 「貴女を甘やかせるのは私だけの特権ですから、ね」 「そんな風に言われると調子に乗っちゃいますよ」 「どうぞ、そうして下さい。全力で受けとめて差し上げますよ」 いますぐ抱きつけないのが残念でならない。 カーラジオから聞こえる明日の天気予報は晴れ。 雨の翌日の空はきっと美しいだろう。 明日もまた一日頑張れそうだ。 そして、今度の休みには目一杯甘えよう。 自分にだけ甘い恋人との甘い休日が今から楽しみで仕方なかった。 |