安定期に入ったため、やっと外出を許可された。 それまでは何かあっては危ないからと言われて許してもらえなかったのだ。 家事も殆ど蔵人さんがこなしてくれていた。 お茶を淹れるのさえ危ないからと言われ、どれだけ過保護なのかと思ってしまう。 至れり尽くせりで過ごした数ヶ月。 お陰でお腹の子供のことだけを考えてリラックスして過ごせた。 「それだけ聞くと良い夫に思えるけど」 紅茶を飲みながら卑弥呼ちゃんが言った。 「実際は、“あの”赤屍蔵人なのよねぇ」 彼女の中では完璧なパパと最凶最悪の運び屋とがなかなか結びつかないようだ。 無理もない。 私は実際に被害にあったことはないが、銀ちゃん達の話を聞くだけでも、とんでもなく恐ろしい男だと思えるくらいだから相当なものだろう。 「まあ、聖羅が幸せならそれでいいわ。おめでとう」 「ありがとう、卑弥呼ちゃん」 卑弥呼ちゃんは本当に良い子だ。 優しくて気遣いが出来る上に、そこらの男よりしっかりしている。 今日はお祝いまで頂いてしまった。 「卑弥呼ちゃんとお話出来て良かった。久しぶりに外に出たからいい気分転換になったわ」 「ずっと家にいたら息苦しいでしょう」 「うーん、私は元々インドア派だったし、そんなに苦痛じゃなかったかな」 卑弥呼ちゃんは、そう、と笑った。 「あの赤屍がどんな顔で家事をやってるのか想像するとちょっと笑えるわね」 「あはは、でもほんとに家事が出来る人で助かってる。私が気がつく前に何でもやってくれるし」 「あの赤屍がねぇ…」 卑弥呼ちゃんはまだ信じられない様子で頬杖をついた。 「妊婦さんにあまり刺激的なこと言うのもアレだけど、あいつ、この前の仕事の時なんか『殺さなければ良いのでしょう』とか言って、用心棒の男達の手足の神経切って山の中に放置したのよ」 「へえ…」 「後で匿名で警察に通報しておいたからたぶん病院行きになったわね」 「卑弥呼ちゃんにはいつも苦労をかけて申し訳ありません」 「謝らないで。むしろ聖羅が一番の被害者じゃない」 一番の被害者…そうなのだろうか? 「結婚して子供が出来て丸くなるかと思えば、今まで以上に張り切って仕事に励んでるから、裏稼業の人間は皆震え上がってるわ」 「今まで以上に仕事に励むって、良い事のように聞こえるけど、蔵人さんだからなあ…」 「そうなのよねぇ…」 「私がどうかしましたか?」 良いタイミングで現れた蔵人さんに、卑弥呼ちゃんの顔がひきつる。 「お迎えにあがりましたよ、聖羅さん」 「ありがとうございます、蔵人さん」 「すみませんでしたね、卑弥呼さん」 「はいはい、お幸せにね」 卑弥呼ちゃんと別れて店を出る。 車の助手席に座ると、私はお腹を撫でた。 「赤ちゃんも蔵人さんがお迎えに来てくれて喜んでるみたい」 「貴女に似て可愛らしい子ですね」 「私と同じくらい蔵人さんが好きなんですよ、きっと」 「私にとって貴女も貴女のお腹の中の子供も、かけがえのない存在ですよ」 車のエンジンがかかる。 さあ、帰ろう。 三人の我が家へ。 |