赤屍さんのマンションに移り住んで約1ヶ月。 予想以上の快適さに驚くと同時に戸惑っている。 まず、真夏で暑いからといって窓を開ける必要がない。 冷暖房完備、室内は空調で常に適温に保たれているからだ。 コトが終わった後に裸でゴロゴロしていても風邪をひかない。 裸族に優しい環境である。 掃除が行き届いた部屋の中はいつも清潔で綺麗だし、リビングのソファも寝室のベッドも実に居心地が良い。 与えられた自分用の部屋なんて、前に住んでいたところより広い。 お陰で荷物を運びこんでもまだ余裕があった。 そして、何より、食事が美味しい。 一応家事は分担ということになっているが、日中家にいることが多い赤屍さんが主にやってくれている。 食事の支度もその一つだ。 赤屍さんの作る料理はどれも美味しい。 器用な人なので、レシピを一度見ただけで完璧に作れてしまう。 凄い才能だ。 この器用な指先で、かつては外科医として大勢の人々を救っていたのだろう。 それが今では…。 そうなった過去を思うと胸が苦しくなる。 「今は貴女がいて下さるから幸せですよ」 そう赤屍さんが微笑んでくれるから、私もそれだけで幸せな気持ちになれるのだ。 美味しいご飯を食べて、広い浴室でゆっくりお風呂に入って、大きなベッドで眠る。 ──時々、朝方まで眠らせてもらえない時もあるけど。 とても幸せな生活だと思う。 「なんだ、ノロケか」 ブルマンを飲んでいた蛮ちゃんが「ケッ!」と吐き捨てる。 「こっちは未だに車上生活だってのに、いいご身分だよなぁ?」 「それは蛮ちゃんが競馬に有り金突っ込んじゃったからでしょ」 「どうしてそれを…!」 「銀ちゃん泣いてたよ。またグーなロフトが遠のいちゃったって」 「銀次の奴…」 ブルマンのカップ片手に舌打ちする蛮ちゃんはカッコいい。 強くていい男なのに、ギャンブル癖のせいで幸せから遠ざかっている気がする。 「余計なお世話だ」 「いたっ」 でこぴんされてしまった。 「私、何も言ってないよ?」 「バーカ、この蛮様には全てお見通しなんだよ」 「はあ…仕事も出来るし、面倒見もいいのに、なんで蛮ちゃんは幸せになれないんだろう」 「犯すぞ」 「そうなると、美堂くんには死んで頂くことになりますね」 怜悧な声が聞こえて、私達は揃って声の主を見た。 赤屍さんだ。 赤屍さんがいつの間にか喫茶店の店内に入って来ていた。 「いけない人ですね。家で待っているように言ったでしょう」 「ごめんなさい」 私は素直に謝った。 「久しぶりにマスターのコーヒーが飲みたくなっちゃって」 「それで、美堂くんと楽しそうにお喋りしていたわけですか」 名指しされた蛮ちゃんは「やんのかコラ」と身構えたが、赤屍さんは私だけを見ていた。 「私以外の男など必要ないでしょう?」 赤屍さんのマンションに移り住んで約1ヶ月。 予想以上の快適さに驚くと同時に戸惑っている。 同居人はヤンデレだった。 |