「窓を開けて寝るのは感心しませんね」 赤屍さんが作ってくれた朝ごはんを食べていると、彼は私を見ながらそう言った。 それにしてもご飯が美味しい。 朝はいつもオールブランかグラノーラだからこんなにしっかり食べるのは久しぶりだった。 ちゃんとお出汁から作っただし巻き玉子なんて絶品だ。 具沢山のお味噌汁を飲んでから私は口を開いた。 「だって暑いから」 「エアコンがあるでしょう」 「電気代がもったいないからなるべく使わないようにしてるんです」 「だからと言って、女性の一人暮らしで窓を開けっぱなしというのは危険ですよ」 恐らく地上の誰よりも危険なはずの男はそう言って冷たい麦茶を注いでくれた。 それで喉を潤すと、すかさず追撃してくる。 「電気代なら私が払います」 「そんなわけにはいきませんって」 「それなら、夏の間は私のマンションに来なさい。責任を持って面倒を見ます」 「うーん…」 魅力的な申し出だが、そうなると週末のお泊まりだけでも大変な男女の営みが毎日のことになりそうで、さすがにちょっと二の足を踏んでしまう。 ただでさえ夏場は体力がないのだ。 仕事に行くのでいっぱいいっぱいな現状を考えれば、体力の消耗は避けたいところである。 「だって、そうしたら赤屍さん毎日えっちするでしょう?」 「一日置きに我慢します」 「うーん…」 私の心はかなりぐらぐら揺れていた。 電気代や生活費が浮くのは正直助かる。 それでなくても好きな人と暮らすのはワクワクするし嬉しいものだ。 行ってらっしゃいと送り出され、お帰りなさいと迎えられる喜びを知っているから、尚更。 「良い子ですから…ね?」 よしよしと頭を撫でられる。 完全に懐柔しにかかっている。 赤屍さんは本気だ。 一緒に住もうと誘われるのはこれが初めてではないが、今日は本当の本当に本気だ。 その時、時計が目に入った。 「あ、もう支度しないと」 「夕食を作って待っていますから、帰りまでに考えておいて下さいね」 「ハイ」 逃げられなかった。 本気の赤屍蔵人怖い。 とは言え、時間がないのも本当なので、急いで支度をする。 歯を磨き、メイクをして、服を着替える。 その間、赤屍さんは洗い物をして、洗濯物を集めていた。 このままでも充分幸せな気がするんだけどなあ。 「一緒に住めば、もっと幸せにしてみせますよ」 超越者怖い。 支度を終えた私は玄関に向かった。 赤屍さんがついてくる。 「行ってらっしゃい。気をつけて」 「ありがとうございます。行ってきます」 玄関を出て最寄り駅へと急ぐ。 帰りまでに覚悟を決めておかないと。 |