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いよいよ夏本番。
蒸し暑い日が続くある日、赤屍さんがホンキートンクに大きなスイカを持って来てくれた。

「わあ、おっきい!」

「立派ですねぇ」

夏実ちゃんとレナちゃんがはしゃぐ中、マスターがお礼を言うと

「いつもお世話になっているお礼ですよ」

と赤屍さん。
どこかの奪還屋に聞かせたい台詞である。

「私が切り分けましょう」

「え、いいんですか?」

「任せて下さい」

赤屍さんがシャキンとメスを構える。
しゅぱぱっと空を切る音がして、次の瞬間にはスイカは見事に切り分けられていた。

「凄い!」と夏実ちゃんとレナちゃんが拍手をする。
私はお皿を出して、切り分けて貰ったスイカを乗せていった。

「ありがとうございます。赤屍さんも食べて下さい」

「では、お言葉に甘えて」

赤屍さんはスイカを一つ手に取った。
スイカにかぶりつくDr.ジャッカルなんて、滅多に見られない光景だ。
蛮ちゃん達がいたら驚いただろうな。

「貴女もどうぞ」

「はい、頂きます」

スイカは甘くてとてもみずみずしかった。
熱中症対策に良いというのも頷ける。

「おや、スイカの汁が」

赤屍さんが手を伸ばしてくるのを視界にとらえた私は、ハンカチで素早く口の回りを拭った。
伸ばしかけた手が途中で止まる。

危ない。ベタな展開になるところだった。

「んぐっ!?」

と思っていたら、口にスイカの天辺の三角の部分を突っ込まれた。
突然のことで対処出来ず、口の端から汁が垂れる。

「おや、スイカの汁が」

今度の赤屍さんは早かった。
悪魔の速さで私に覆い被さり、口と口を…。

「んーっ!んーっ!」

「クス」

やだ、そんなとこまで。
そこ違う!そこ違う!
口の中はやめてぇっ!

「うわあ…」

「ラブラブですね」

夏実ちゃんとレナちゃんがきゃっきゃっとはしゃいでいる。
目線でマスターに助けを求めるが、困った顔で首を横に振られた。
あんまりだ。

「ごちそうさまでした」

語尾にハートマークをつけてそう言った赤屍さんが私から離れる。
私はそのままその場に崩れ落ちた。

スイカがトラウマになったらどうしてくれるんですか。


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