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暑い。
今日も最高気温を記録しているのではないだろうか。
先ほどまで雷が鳴っていたのにいつの間にか遠ざかってしまった。
ざっと降れば涼しくなるのに。

そんなことを思いながら帰り道を急いでいると、すぐ横で車が止まった。
なんだろうと足をとめる。
ドアが開いて降りて来たのは赤屍蔵人だった。
いつもの黒衣に黒い帽子。
夏の暑さも感じていないようなその不吉な姿に寒気を覚える。

「赤屍さん?」

あまりにもタイミングが良すぎる登場に困惑していると、赤屍はおもむろに助手席のドアを開けた。

「貴女を攫いに来ました」

「えっ」

「さあ、どうぞ」

攫いに来たと言われて大人しく従う馬鹿はいない。
なので、一応、「明日も仕事があるので…」とやんわり拒絶してみるものの、あの怖い笑顔で押しきられてしまった。

「大人しく一緒に来て頂かないと、罪もない人々の命が危険にさらされるかもしれませんよ」と。

完全に脅迫である。
仕方なく助手席に乗ると、赤屍も運転席に戻り、すぐに車を発進させた。

それからすぐのことだった。
突然雷が鳴り響いたかと思うと、バケツをひっくり返したような雨が降り出したのは。
天気予報で言っていたゲリラ豪雨だ。

「危なかったですね」

ハンドルを握りながら赤屍が告げる。

確かにあのまま歩いていたら土砂降りの雨に濡れて困っていただろう。
はからずも助けられた形となってしまった。
いや、彼には最初からこうなることがわかっていたのかもしれない。

「ありがとうございました」

「礼には及びませんよ。言ったでしょう。私は貴女を攫いに来たと」

豪雨の中を突き進んでいく車の行き先は、恐らく赤屍のマンションだろう。
そうなると、どうなってしまうのか。

聖羅は深く助手席に沈みこみ、溜め息をついた。

月曜日ということで、仕事の疲れを感じていたが、それとはまた別種の疲労を味わうことになるはずだ。
想像しただけで、はしたなくも子宮がきゅんとなってしまう。

「安心して下さい」

前方を見つめながら赤屍が低く笑った。

「明日になれば、ちゃんと職場まで送って差し上げますよ。責任をもって、ね」


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