「えっ」 「おや」 スーパーで赤屍さんにばったり出くわした。 咄嗟に回れ右をして逃げださなかった私を誉めてほしい。 この最強最悪の運び屋とは出来る限り接触したくないというのが正直な気持ちだ。 「お買い物ですか」 「赤屍さんも…?」 「ええ。夕食の買い出しに」 じり、と後退れば、相手も同じだけ距離を詰めてくる。 お互いに買い物カゴを提げたまま、じりじりと攻防を繰り広げた。 先に音を上げたのはもちろん私のほうだ。 「ふえぇ…!」 「クス」 半泣きになる私を見て赤屍さんが笑う。 獲物を見る目で私を見る男は、微笑を浮かべたまま私の手を掴んだ。 「ひっ」 「貴女は何故私をそんなに怖がるのです?貴女には直接何かをしたことはないはずですが」 「みんなの話だけで充分近づいちゃいけない危険人物だってわかります」 「貴女に危害を加えたりしませんよ」 駄目だ。会話が噛み合わない。 「赤屍さん、怪我してもすぐ治るんですよね?」 「ええ、血を流し過ぎると危ないですが、そうなる前に塞がりますからね」 「蛮ちゃんのスネークバイトを片手で受け止めたって聞いたんですけど」 「軍艦島に行く直前のことですね。あの時の依頼は実に楽しかった」 「し…死なないって本当ですか?」 「私は死がイメージ出来ないのですよ。イメージ出来ないことは起こり得ない。それが世の摂理というものです」 駄目だ。このヒト人間じゃない。 「怖いです!!」 「よしよし、怖くありませんよ」 優しげな声音でそう言って頭を撫でてくれるが、怖いものは怖いのだ。 「困りましたね。どうすれば私の想いを受け入れて頂けるのでしょうか」 「え…?」 「聖羅さん、私と貴女の遺伝子をシャッフルしませんか」 「遺伝子をシャッフル?」 「愛しています。貴女の全てがほしい」 「ご、ごめんなさいごめんなさい!許して下さい!」 逃げようとしたが、腕をガシッと掴まれていて動けない。 「逃しませんよ」 「ひいっ…!」 「大丈夫です、優しくしますから。大切に、大切にして、私の全てで貴女を守ります」 「ひえぇ…!」 「ですから…ね?」 「あ、いけない!お買い物の途中だった!すみません、赤屍さん、また今度!」 「そういえばそうでしたね。ああ、それならこうしましょう」 「ふあっ!?」 突然の浮遊感。 一瞬の内に赤屍さんに片腕で身体を担がれてしまっていた。 「では、レジに行きましょう」 私の持っていたカゴを一緒に持って、赤屍さんがレジに向かって歩き出す。 「お、降ろして下さい!」 「降ろしたら貴女は逃げるでしょう」 「当たり前です!」 「困りましたねえ」 さして困った風でもなく、赤屍さんはレジで二つのカゴの会計を済ませた。 もちろん、私を担いだまま。 レジのお姉さんがギョッとしたように私達を見たが、お金さえ払えば問題ないとみなされたのか、特に通報されることはなかった。 いや、通報して下さいよ! 「さあ、帰りましょうね」 「お…降ろしてえぇ…!」 こうして私は買った商品とともにお持ち帰りされた。 その先でナニをされたのか……恐ろしくて思い出したくない。 |