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成人式には雪が降りやすいと言われているが、今年はハレの日にふさわしい快晴だ。
自然と晴れやかな気持ちになり、聖羅は最高のコンディションで今日のこの日を迎えられた。

「聖羅、こっちこっち!」

一緒に式典の会場まで来た友人が手招きする。
見れば辺りの座席には見知った顔ばかりが集まっていた。
中には懐かしい顔も混ざっていて、思わず顔がほころぶ。

「久しぶりー!」

「どこの大学行ったんだっけ」

「あそこ?へえ、あの子も一緒なんだ」

開会のブザーが鳴るまでの間、聖羅達はしばし近況報告などで盛り上がった。
式典が始まってからはお口にチャックで、静かに式にのぞむ。
偉い人の挨拶から、地元出身の有名人からのお祝いの言葉などが続き、厳かな気持ちで聞いていたのもそろそろ退屈になりはじめた頃。
みんなはどんな風に聞いているのだろうと思い、ふと何気なくステージから視線を周囲へと巡らせた聖羅は、ある一点を見た瞬間凍りついた。

柱の陰の暗がりに溶け込むように佇む、黒衣の男。

最初は目の錯覚かと思ったが、間違いない。
あの男だ。
運び屋の、赤屍蔵人。
聖羅に歪んだ執着心を持つ彼が、こんな所にまで現れたのだ。

聖羅はゾッとした。
いつからいたのだろう。
もしかして、自分が気付く前からずっとこちらを見つめていたのかもしれない。
そう思うと身体がどうしようもなく震えた。

早く逃げなければ。

「聖羅、顔色悪いけど大丈夫?」

「うん…ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

聖羅は友人にそう断ってそそくさとその場から逃げ出した。
赤屍の視線から逃れて、ロビーへ続く通路に出る。

人気のない通路でほっと息をついた時、後ろから柔らかな声音が聞こえてきた。

「逃しませんよ」

身体が強ばり、ガタガタと震えはじめる。

「お友達から離れたのは失敗でしたね。彼女達の身の安全を選んだのでしょうが、こうして──」

背後から伸びてきた二本の腕に抱きしめられる。

「私に捕まる隙を与えてしまった。貴女の負けですよ、聖羅さん」

もはやまともに立っていられなかった。
恐怖で身体から力が抜け、赤屍の腕に支えられている状態だ。
耳元に唇が寄せられる。
肌に直接吐息を感じる。

「成人おめでとうございます、聖羅さん」

「あ……赤屍さ……」

「お祝いに良い所へ運んで差し上げましょう。きっと気に入って頂けるはずですよ」

彼が何をしようとしているのか、これから自分がどうなってしまうのかわかっているのに身体が動かない。
足に力が入らない。
崩れ落ちそうな聖羅の身体を赤屍がふわりと抱き上げた。


**


「──聖羅?」

心配して友人が通路に出てきた時には、もうそこには聖羅はいなかった。
ただ冷えた空気ばかりが肌を粟立たせるだけだ。

「聖羅?」

もう一度名を呼ぶ。
だが、答える声はない。
友人は何かただならぬものを感じて慌てて会場に戻った。
聖羅が戻っているかもしれないと思いながら。


それ以来、彼女の姿を見た者はいない。


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