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目標があるとつらい仕事も頑張れる。
現在の目標はお金を貯めてマンションを買うことだ。
そのために、大学時代から今まで安いアパートでずっとコツコツ頑張ってきている。
休みの日に預金通帳を眺めるのが密かな楽しみだ。

そんな生活だから、当然彼氏などいない。
我が覇道に男など不要!と割り切って学生時代からずっと貯金に励んでいたので、男性経験も皆無だ。

そんな私にお見合い話が舞い込んできた。

指定されたのは、老舗ホテルの料亭。
あの無料で入れる日本庭園があることで有名なところだ。
お花見時期だし、美味しいものが食べられるし、というよこしまな考えから二つ返事でお受けしたのは先日のこと。

「新宿で外科医をしている、赤羽蔵人と申します」

相手を一目見た途端、あまりの場違いさに恥ずかしすぎて逃げ出したくなった。

まず、美形。
すごい長身で引き締まったイイ身体。
新宿で外科医なんて多忙で死にそうなイメージがあるのに、ちっとも不健康そうに見えない。
むしろ余裕を感じる。

もうこの時点でガクブルしてまともな言葉が発せられなかったのだが、相手はにこやかに話題をふってくる。
それに、はい、とか、はあ、とかしか返せないでいるのに、会話が続く不思議。

「とりあえず、食事を食べませんか?お腹がすいているでしょう」

「はい…」

確かにお腹がすいていた。
美味しいものが食べられるということで、昨夜から食事を抜いて楽しみにしてきたのだ。
しかし、今はまるで食べられる気がしなかった。

「私のことは気になさらず、好きなように召し上がって下さい」

コミュ力が異常に高い外科医がそう勧めてくれたので、有りがたく食事を食べはじめる。
一生分味わうつもりで食べた。
二度とこんな機会はないだろうから。

「結婚したら、週に一度は美味しいものを食べに連れて行って差し上げたいと思っています」

外科医はエスパーだった。
驚いて箸を止めた私に、どうぞと飲み物を勧めて、彼は笑った。

「本当に、可愛らしい方ですね」

「そ、そんな…」

「ますます気に入ってしまいました」

にこにこと擬音がつきそうな笑顔で外科医の先生は笑っている。

「あかばね、ですよ。聖羅さん。蔵人と呼んで下さっても構いませんが」

「あかばねせんせい…」

「はい」

きっと、患者さんからも人気があるのだろう。
こんな優しそうな美形の先生なら毎日傷を作ってでも通いたいという人もいるはずだ。

「先生はどうして…」

「どうして貴女を見初めたか、ですか?」

先生の微笑が深くなる。
どうしてか、背筋がゾクッとした。

「貴女が職場の健康診断で行った病院に、私も用事があって偶然居合わせていましてね。その時に」

「は、はあ…」

あかばねさんは、
あかばねさんは、
──ああ、ダメだ。
この人はいけない。
危険だ。危ない。

「一目惚れでした」

あかばねさんが笑う。

「大事な貯金はどうぞそのままで。何かあった時のために手付かずのまま残しておいても良いですし、投資に回しても良いでしょう。貴女を養うくらいの稼ぎはありますから心配いりませんよ」

視線に縫い付けられて動けない。
あかばねさんがすっと立ち上がるのを見ていることしか出来ない。
伸びてくる腕を振り払えない。

「幸せになりましょうね、二人で」


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