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「どこへ行こうと言うのですか」

赤屍の声が追ってくる。
辺りに反響して正確な距離と位置が掴めない。そのことが恐怖を倍増させた。

はっ、はっ、と荒い呼吸を繰り返しながら聖羅は走り続ける。
捕まるわけにはいかなかった。

「お願い…!開いて…!」

木の根が絡みついた壁を叩いてみるが、どこも開かない。
また走る。
まるで迷路のような建物の中をひたすら逃げ続ける。

かなり走ったはずだが、後ろから赤屍が追いかけてきているのがはっきりわかった。
どうやってもふりきれない。

「聖羅ちゃん!」

その時、どこからか微かに銀次の声が聞こえてきた。
慌てて辺りを見回す。

「銀ちゃん!どこ!?」

「聖羅ちゃん!」

今度ははっきりわかった。
声が聞こえてきた方角へ走る。

「銀ちゃん!」

壁の隙間の向こうに銀次の姿が見えた。
かろうじて手が入るその隙間に手を突っ込み、ギリギリまで腕を伸ばして、持っていたものを銀次に託す。

「海に…捨てて…!」

それが銀次の手に渡ったのとほぼ同時に赤屍に追い付かれてしまった。
赤屍が壁の隙間に向かってメスを投げる。
一瞬ひやりとしたが、銀次のことだからきっとうまく避けただろう。

「聖羅さんと交換です。それを失くさないように大事に持っていなさい、銀次くん」

見れば、行き止まり。
どうやらここまでのようだ、と聖羅は覚悟を決めた。

「鬼ごっこは終わりですよ、聖羅さん」

赤屍がこちらを振り返る。

「終点が玉座の間とは上出来ですね。こちらへ来なさい」

それには従わず、聖羅は首を横に振った。

「貴方はここで私と死ぬの」


「それってラピュタ?」

「ラピュタだな」

「ラピュタですね」

いつものカウンター席に座った奪還屋の二人と夏実が言う通り、どう見てもラピュタだ。
自分でも話しながら思った。

「寝る前にDVD観たとか?」

「ううん、全然そんなことなかったんだけど」

「赤屍さんとラピュタ……接点がまるで見えないのです」

銀次が遠い目をして言ったが、同感だった。
およそジブリ映画に出てきそうな人物ではない。
もっと血生臭いホラーが似合いそうだ。
などと思っていたら、本人がやって来た。

「皆さん楽しそうですね」

赤屍が笑ってテーブルに向かう。
席に座った彼に注文を聞くと、いつものように

「紅茶をお願いします」

と返ってきた。
すぐにマスターが淹れた紅茶を持って赤屍のもとへ向かう。

「それで、何の話をしていたんですか?」

「聖羅ちゃんがラピュタの夢を見たんだよね」

「赤屍に追いかけられる夢な」

「おやおや」

クス…と笑った赤屍に寒気を感じて後退ると、彼は優雅な仕草で聖羅の腕を捕らえた。

「奇遇ですね。私も貴女の夢を見たのですよ。ちょうど追い詰めたところで目が覚めたので残念でした」

後少しだったのに


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