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暦が三月に入り、大分暖かくなってきた。
だが、お花見にはまだ少し早い。
桜じゃなくてもいいから何か沢山のお花が見たいと言った聖羅を連れて、赤屍は横浜にある英国式庭園を訪れていた。

ここの見所は薔薇園だが、薔薇の時期にはまだ早いせいか、客の姿はまばらだった。
それが狙い目なのだ。

「聖羅さん、スイートピーですよ」

「わあ、綺麗!」

丁度この時期はスイートピーが満開なのである。
色とりどりのスイートピーが群れ咲く庭園を見て喜ぶ聖羅に、赤屍は花言葉を教えてやった。

“ほのかな喜び”
“門出”
“別離”
“優しい想い出”
“永遠の喜び”
“私を忘れないで”

ピンクは
“繊細”“優美”

白は
“デリケートな喜び”

「“優しい想い出”は知ってました。“門出”も。卒業式の時にスイートピーの花を貰ったので」

「男性ですか?」

「いえ、部活の後輩です。良い子達ばかりで、私よりしっかりしてました」

「なるほど。よくわかります」

「えっ、ひどい!」

「クス…失礼。ですが、今の貴女には私がついていますから」

「はい、頼りにしてます」

そんなことを話しながら花を見て歩き、庭園の一角にあるガーデンカフェへと足を向けた。
メニューを見て、アフタヌーンティーセットを注文する。

混んでいなかったせいか、注文の品はすぐに届いた。
三段あるケーキスタンドには、それぞれ、サンドイッチ、スコーン、ケーキが盛り付けられている。

「えっと、サンドイッチからでしたっけ」

「二人きりですから、好きなように食べて構いませんよ」

「良かった…じゃあ、早速いただきます」

まずはサンドイッチから。
サーモンとクリームチーズのサンドイッチだった。
アフタヌーンティー用だからか、普通より少し小さめなので、ぱくぱく食べられる。

「紅茶をどうぞ」

「ありがとうございます」

赤屍がティーポットからいれてくれた紅茶を飲んで喉を潤す。
喫茶店で飲むものより高級そうな味がした。
実際そうなのだろう。
紅茶を好んで飲む赤屍が満足そうな顔をしている。
良い香りを堪能しつつ聖羅は紅茶を味わった。

「スコーンはジャムで?それともクロテッドクリームにしますか?」

「両方はダメですか?」

「では少しずつつけて食べましょう」

ストロベリーのジャムをつけて、まず一口。
それから、クロテッドクリームをつけてまた一口。

「どうですか、聖羅さん」

「どっちも美味しいです」

「良かったですね。さあ、ケーキもありますよ」

ケーキはチョコレートとミルフィーユだった。
どちらもプチサイズだ。

「赤屍さん、どっちがいいですか?」

「私は結構ですよ。両方召しあがって下さい」

「いいんですか?」

「ええ。私はケーキを食べる貴女を見つめているほうが愉しいので」

「そ、そんなに見つめられたら食べられません…!」

「お気になさらず。さあ、どうぞ」

結局、ケーキは二つとも聖羅のお腹に収まった。

最後に紅茶をもう一杯。

「ごちそうさまでした」

「美味しかったですか?」

「はい、とっても!」

「それは良かった。お連れした甲斐があるというものです」

「赤屍さんは満足しましたか?」

「私は貴女が側にいて下さるだけで幸せですよ」

二人を照らす陽射しは、暖かく、柔らかい。
本格的な春はもうすぐそこまで来ていた。


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