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“お花屋さん”

賞与年二回アリの月給24万円と言えば、この業界の給与水準と照らし合わせても破格の待遇であることは間違いない。

だからこそ、就職難で困っている大学の友人達に羨ましがられるわけなのだが、彼女達が考えているほど楽に正社員になれたわけでは決してない。

それこそ彼女達がキャンパスライフを満喫している間、専門に通いながら必死にアルバイトとして働いてきた努力が認められた結果なのである。


「綺麗ですね」

一瞬反応が遅れた。
慌てて笑顔を作り、声がした方へ振り向く。
そこにいたのは黒いスーツに黒いコート、黒い帽子に革靴という、全身黒尽くめの男性だった。

「何かお探しですか?どのお花に致しましょう」

「そうですね…」

男性は薔薇の花を見ている。
黒に近い紅い薔薇が似合いそうだなと感じた。

「バースデイプレゼントにと考えているのですが」

「お誕生日の贈り物ですか」

「ええ。やはり相手の好きな花を贈ったほうが印象は良いですよね」

「そうですね。喜ばれると思います」

「では、選んで頂けますか?」

「えっ」

「貴女の好きな花を」

男性は優雅な口調でそう告げた。

「あの、私が選んでしまってもいいんですか?」

相手の好きな花を贈るという話ではなかったのだろうか。
混乱しつつも営業スマイルのまま尋ねれば、「お願いします」と微笑が返ってくる。

仕方がないので、私は自分が好きな花を中心に、それに合うものをいくつか組み合わせて花束を作った。
金額を伝え、お金を受け取って会計を済ませる。

「有り難うございました」

「いえ、では、どうぞ受け取って下さい」

目の前に、今作ったばかりの花束を差し出される。
えっ、えっ、と思う間に、やや強引に受け取らされてしまう。

「お誕生日おめでとうございます、聖羅さん。私は赤屍蔵人と申します。努力家でいつも頑張っている貴女をずっと見つめていました。私の気持ちを受け取って下さい」


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