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「そういえば、今日、蝉丸さんに会いました」

コートを受け取りながらそう告げると、一瞬赤屍の動きが止まった。
しかしそれは本当に一瞬のことで、すぐに彼はネクタイを緩めてしゅるりと外し、クローゼットの中のバーにそれを掛けた。
そこには同じ色のネクタイが並んでいる。
コートと同じくいわゆる“お仕事用”である。

「何を話したんですか?」

「世間話とか、まあ、色々と」

「蝉丸に面白い話が出来るとは思えませんが」

聖羅は「ひどい」と笑った。
赤屍の声音が少し冷ややかだ。雰囲気もピリピリしている。

「何を話したんですか」

「だから、世間話とか、色々と」

「聖羅さん」

赤屍の顔から笑みが消えている。
珍しい、と思うと同時にほんの少しだけ怖くなった。
ちょっとふざけすぎたようだ。

「昔の赤屍さんのこと教えてもらおうと思ったのに、謎かけみたいなことしか教えてくれませんでした」

「過去のことなどどうでも良いでしょう」

やや呆れたように言って、赤屍は聖羅を抱きしめた。

「あまり心配させないで下さい」

「焼きもちやきました?」

「私を嫉妬させたいのなら覚悟を決めてからにして下さいね」

赤屍の唇に笑みが浮かぶ。
それを見て聖羅はゾッとした。怖い。

「ごめんなさい…」

「妬かせて私の気持ちを確かめたりしなくても、私の心は未来永劫貴女だけのものですよ」

「赤屍さん…」

聖羅は感動した。

だが、この後、ベッドの上で散々鳴かされることになるとは思いもよらなかった。

「どうやら私の愛情表現が足りなかったようですからね。たっぷり味わって頂きましょう」

「た…たすけて…」


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