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……眠い。
身体は重い倦怠感に包まれていて、目を開けていられないくらい眠い。
春眠暁を覚えずというが、これがそういう類いのものではないことはわかっていた。
薬のせいだ。

ベッドに身体を横たえたまま天井を見上げる。ようやく熱が引いたのはいいけれど、気怠さでなにもする気が起きない。

そんなことを考えていたら、ドアの開く音と共に誰かの気配。
いや、誰かだなんて馬鹿馬鹿しい。
ここには自分以外にはたった一人しかいないのだから。
赤屍蔵人。運び屋の、Dr.ジャッカルだ。

「気分はいかがです?」

赤屍はこちらの様子を見ると、クスと笑った。

「ちゃんと薬が効いているようですね。結構」

「……」

「これは貴女のためなのですよ」

せめてもの抵抗に、ぷいと顔を背ければ、クスクスと笑う声が聞こえてくる。

聖羅の父親は奪い屋だった。
聖羅はちっともそんなことは知らなかった。
当たり前だ。
聖羅の父親は普通のサラリーマンだったのだから。
それが、身体の弱い聖羅のために大金を稼ごうとして奪い屋などという危険な仕事に手をつけなければならなくなってしまったのだ。
そして、何とも運の悪い事に最初の依頼で運び屋の赤屍と対峙することとなったのだが、当然依頼は失敗し、依頼主に始末されてしまった。
今では父のせいで聖羅も追われる身だ。
それを、何の気まぐれか、赤屍がかくまってくれているのだった。
帰る家もない、病弱な聖羅をアジトの一室で看病してくれている。
聖羅には彼の考えが全く理解出来ない。

「そうそう。その調子で安静にしていて下さい。そうしないと治るものも治りませんからね」

優しげな手つきで髪を撫でられる。
顔を背けたままの聖羅の身体が小さく震えるのを見て赤屍が笑みを漏らす。

「本当に、可愛い方だ」

本当はわかっている。
彼が何を求めているのか。
その事実があまりにも恐ろしくて認めたくないだけなのだ。

そうする内に、とうとう睡魔に負けて目を閉じてしまった。
そうすれば後はもうまっ逆さまに眠りの海に落ちていくだけだった。
もう二度と会えない父の顔、友達の顔が、頭の中をぐるぐる回る。

「泣かないで。大丈夫、何も怖いことなどありませんよ。私が側にいます。ずっと、ずっとね…」

それが何より怖いのだと、でも言葉には出来ずに涙を流しながら眠りに落ちていく。

「おやすみなさい、聖羅さん。起きたら甘いフレンチトーストを作ってあげましょうね」


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