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目の前で歌って踊っている人々の群れ。
いわゆるフラッシュモブというやつだ。
クリスマスにサプライズでプロポーズなんてロマンチックだな、と微笑ましく思いながら眺めている。
私はイブもクリスマスも仕事だったので、仕事帰りにこういうイベントごとに巻き込まれたのは案外ラッキーだったのかもしれない。
多少なりともイベント気分が味わえたから。

「茶番ですね」

冷ややかな声が聞こえ、突如賑やかな歌声も雑踏も遠ざかっていくような錯覚を覚えた。

「私ならこんな回りくどい真似などせずに、もっと直接的なやり方で口説きます」

驚いたような女性の顔が歓喜の表情に変わる。
人々の群れの中から進み出た男性が彼女の前に跪き、小さな箱を差し出したからだ。

「そうですね…例えば、今ここにいる全ての人々の命と引き替えに、私のものになりませんか?などというのはいかがでしょう?」

幸せそうな人々。
その後ろでメスを光らせる運び屋。

突然現れて選択肢を迫る男の顔を見つめて震えていることしか出来ない私のことなど、誰も見ていない。
今、ここで、大勢の人間の命が天秤にかけられていることなど誰も知らない。気づかない。

「さあ……どうします?」

血の匂いのこびりついたメスを目の前にかざして答えを迫るのは、聖なる夜に舞い降りた黒衣の死神だ。
彼が無造作に手を振る……ただそれだけで多くの人々の命が奪われるだろう。

「返事を聞かせて下さい」

黒衣の死神は笑っていた。
とうに答えなどわかっているのだ。
私に選択肢など存在しないと解っていて、笑っているのだ。

「さあ」

差し出される手には小さな箱が乗っていた。
震える自分の手をそこへそっと重ねる。
わっと周囲から歓声があがったのは、先ほどの女性がプロポーズを受け入れたからだろう。

「メリークリスマス、聖羅さん。貴女は私だけのものですよ」

祝福の嵐の中、酷く冒涜的に聞こえる聖夜を祝う言葉が耳元で囁かれた。


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