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友達に新年会という名の合コンに誘われた。
自慢の彼ぴっぴはどうしたと問えば、クリスマス後に大喧嘩をして別れてしまったらしい。
なるほど、それでか。
納得したところで新年会の会場に連行された。

てっきり居酒屋あたりに連れて行かれるのだと思っていたから、着いて早々に違和感を覚えた。
何故ならそこは料亭だったからだ。

「ちょっと…大丈夫なの?」

「大丈夫だいじょぶ、向こうのオゴリだから」

いかにもな老舗感にビビりながら耳打ちすれば、なんとものんきな返事がかえってくる。
もちろん心配なのは会費のことだ。
友人は向こうのオゴリと言ったが、普通、出しても多めぐらいで完全に男性陣の支払いというのは体験したことがない。
別の意味で不安になりながら案内された部屋に入ると、

「お待ちしていましたよ」
「お待ちしていましたよ」
「お待ちしていましたよ」
「お待ちしていましたよ」
「お待ちしていましたよ」
「お待ちしていましたよ」

穏やかな美声の六重奏に迎えられ、思わずバッグを取り落とすところだった。
全く同じ顔が六つ並んでいる。

「私達は六つ子なんです」

驚愕に固まっている聖羅に一番近くにいた男性が説明してくれた。
六つ子!
びっくりである。

「長男の赤屍蔵人と申します」
「次男の赤屍蔵人と申します」
「三男の赤屍蔵人と申します」
「四男の赤屍蔵人と申します」
「五男の赤屍蔵人と申します」
「六男の赤屍蔵人と申します」

「ええっー!?」

思わず声をあげてしまった。
六つ子で全員同じ名前なんて有りなんだろうか。
いや、実際に目の前にいるけれども。
こんな反応は慣れっこなのか、六つ子は淡く微笑んでいるだけだ。
気を悪くした様子はない。

「では始めましょうか」

「えっ、あの、他の人は?」

「女性はお二人だけですよ」

友人の顔を見ると、彼女はさっと目を逸らした。
しまった。ハメられた。

「まあ、立ち話もなんですから」

「とりあえずこちらへどうぞ」

長男と次男に促されてテーブルの前に恐る恐る腰を下ろす。
掘り炬燵になっていて足を下ろすタイプの座席だ。
正直正座は苦手なのでありがたかったが、これではいざという時に逃げ辛い。
それも計算の内だったら恐ろしい話である。

まずは自己紹介。
聖羅が名乗ると、何故か六つ子は初めから知っている風な反応を示した。
事前に友人がリークしておいたのだろうか。
ごく自然に「聖羅さん」と親しげに呼ばれて悪い気はしないが、何となく薄ら寒いものを感じずにはいられない。

しかし、六つ子の赤屍蔵人達は優しかった。

酒を注いでくれ、料理を取り分けてくれ、甲斐甲斐しく気を遣ってくれる。
そのこともあってか、それともお酒が入って警戒心が薄れたせいか、これはこれで貴重な体験かもしれないと楽しむ余裕が出てきた。

「あ、ごめん!急用を思い出したから先に帰るね!」

友人がそう言い出すまでは。

「え、え、でも…」

「今日は有難うございました。気をつけて帰って下さいね」

「有難うございます。じゃあね、聖羅。楽しんでね!」

そそくさと帰って行った友人を呆然と見送る。
しまった。本格的にハメられた。

「聖羅さん」

呼ばれて、ギギギ、と振り返る。
全く同じ六つの顔が聖羅を見つめて微笑んでいた。

「楽しいですねぇ」
「実に楽しい」
「お酒注ぎますね、聖羅さん」
「デザートが来ましたよ、聖羅さん」
「はい、あーん」

あーんしてスプーンでババロアを食べさせられながら聖羅は震えていた。

「逃がしませんよ」
「逃がしませんよ」
「逃がしませんよ」
「逃がしませんよ」
「逃がしませんよ」
「逃がしませんよ」

その恐ろしい宣告もやはり綺麗に揃った六重奏だった。


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