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結局、ちゃんと自宅に帰れたのは二日後のことだった。
途中荷物を取りに戻ったりはしたけど、殆ど一日中赤屍さんの部屋にいたことになる。

至れり尽くせりで居心地が良すぎたというのもあるが、やっぱり自分でも気づかない内に職場でのミスのダメージが尾を引いていたのだと思う。
人のぬくもりや優しさを求めていたところに、ちょうど良いタイミングで優しくされてしまったので、コロッといってしまったのだ。

甘えている自覚はある。充分すぎるほど。
でも、それさえも今は私に必要なものなのだと思えた。

今日はゴミ出しの日なのでどうしても帰らなければならなかったのと、夜から赤屍さんが仕事だというので、それならと帰宅した形だった。
そうでなければいつまでもずるずると入り浸ってしまっていたかもしれない。

赤屍さんと話すようになってまだ三週間だというのに、私はすっかり彼に依存してしまっている。
今までこんな風に誰かに頼ることはなかったから、とても新鮮な気持ちだった。
少々くすぐったくもある。

「あら、神崎さん今日は早いのね」

「おはようございます」

アパートを出たところで大屋さんに会った。
大屋さんもゴミを出しに来たようだ。
両手に提げていたゴミ袋をゴミ捨て場のネットの中に入れる。

「あなた、ずっと帰りが遅かったでしょう。心配してたのよ」

「すみません、ご心配をおかけして」

「若い子だからっていうのはもちろんだけど、この前通り魔があったばかりだから」

「通り魔?」

初耳だ。警察の聞き込みとかなかったから気づかなかった。

「立て看板があるでしょ、目撃者を探してるっていう」

「すみません、気づきませんでした」

「通り魔が出たのも遅い時間だったのよ。ここだけの話、被害者はあなたの隣の部屋の人だったんだけどね」

「隣?赤屍さんですか?」

「いいえ、その前の人よ。あなたが引っ越してくる前からいた人。その人が通り魔にあって引っ越したから、空き部屋になってすぐ赤屍さんが入ったの」

知らなかった。
そんなことがあったなんて。

「とにかく、遅くなる時は気をつけてね」

「はい、ありがとうございます」

何故だか胸がざわついた。
早く赤屍さんに会いたい。


「赤屍さんは通り魔のこと知ってるのかな…」


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