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その夜は赤屍のマンションに泊まらせて貰った。

あんな事があった後だからなかなか眠れないだろうと思っていたのだが、添い寝してくれた赤屍の腕に抱かれて目を閉じている内に、いつの間にかぐっすり眠ってしまっていた。
このセカイで最も危険な運び屋の腕の中が一番安心出来るなんて、考えてみれば不思議な話だ。





「おはようございます、聖羅さん」

寝起きとは思えない白皙の美貌に微笑まれ、頬を染めながら「おはようございます」と挨拶を返す。

「よく眠れたようですね」

「はい…お陰さまで…」

くすりと笑って唇にキスを落とすと、赤屍は起き上がってベッドから抜け出した。
二人で寝ても余裕があるベッドは、軽くスプリングを弾ませただけで軋みもしない。

カーテンが開かれ、そこから差し込んできた白い光に聖羅は思わず目を瞑った。
外はもうすっかり明るくなっている。
時計を見れば、いつもの起床時間よりも遅い時刻が表示されていた。

「食事の支度をしてきます。その間にシャワーを浴びて──」

言いかけた赤屍の声に被るように響いた音に、ハッとして目を向ける。
ベッドサイドに置かれた聖羅の携帯電話がその音の発信源だった。

「…お母さんから…?」

こんな午前中から電話をしてくるなんて珍しい。
心臓がゆっくりと脈打つ速度を上げていくのを感じながら、聖羅は通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。

「もしもし…?」

『あ、良かった。あのね、大変なの!あの人のことなんだけど、浮気してたの!』

母の声を聞いてビクッと跳ねた身体が、ふわりと浮いた。
ベッドに腰かけた赤屍が自分の膝の上に聖羅の身体を抱き上げたのだ。
後ろから回した腕をお腹の上で組んで、時々手のひらで脇腹や腰のあたりを撫でている。
その温もりと優しい仕草に、強張っていた身体から力が抜けていった。


母の話は、想像していたものと少し違った。
あの男は何ヶ月も前から妹の他に二人の女性と浮気していたのだ。
その一人が妹に電話してきて発覚したらしい。

あの男は前からどうも気に入らなかった、当然婚約破棄にする、弁護士に頼んで慰謝料も請求する、と母は憤慨しきった様子で告げた。

『聖羅も気をつけなさいよ。悪い男に引っかからないようにね』

電話を切った後、赤屍に母から聞いた話を聞かせると、端正な顔に何とも言えない凄みを帯びた微笑が浮かんだ。

「やはり殺しておけば良かったですね」


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