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「…解りませんね…何をそんなに迷う必要があるのです?」

小さく溜め息をついて赤屍が言った。

その声音にわずかに苛立ちが滲んでいることに気がついて驚く。
さっきまでは余裕に満ちた態度が気に入らないと思っていたはずなのに、いざこうして感情の揺らぎを感じさせられるとたじろいでしまう自分が我ながら滑稽だった。
すっかり失念していたが、この男は意外と導火線が短いのだ。

「…きっとガッカリさせると思います」

「しませんよ」

「気が変わるかも」

「自分で言うのもなんですが、執念深くて執着するタチなので、何処までも追いかけることはあっても途中で気が変わることはありません」

「私を残して死んだりしませんか?」

「ええ、私は死にませんよ」

死がイメージ出来ないもので。
赤屍はそう言って淡く微笑んだ。

何だかくらくらする。
バレンタインのお返しとして赤屍に渡されて傍らに置いたままの薔薇の花束から漂う香りのせいだろうか。

聖羅は赤屍から視線を外して、花束に目を落とした。
暗赤色のベロアのリボンで束ねられた薔薇の花の数は、12本。

再び顔を上げて赤屍を見る。
今の自分は縋るような目をしているのではないかと感じた。

目眩はそのまま心の揺らめきだ。
くらくら、ぐらぐらと揺れている。

「揺らぐくらいなら堕ちてしまいなさい」

赤屍の真摯な眼差しと言葉が真っ直ぐ心臓を射抜いた。


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