「マリーアさんはご存知でしょう」 「はい」 マリーアは美堂蛮の祖母の弟子で、蛮を母親代わりに育ててきた女性だ。 今は裏新宿占い横町の『カード屋カルタス』で占いをしたり怪しげな物品を販売して生計を立てている。 「彼女が花粉症に効くというハーブティーを作っていましてね」 「めちゃくちゃ怪しいお薬じゃないですか!」 「ヘヴンさんが試していましたが、特におかしな症状は出ていませんでしたよ。これなら裏稼業の人間に高値で売りさばけると喜んでいました」 「もろ金儲け目当てじゃないですか!」 「薬は効けば“良薬”でしょう」 聖羅はうっと言葉に詰まった。確かに。 「試しに一度飲んでみてはいかがです」 「う…うーん…」 「貴女の力になりたいのですよ、聖羅さん」 赤屍が聖羅の頬に白い指を滑らせる。 彼の指が頬を撫でると、ふっと柑橘系の匂いが香った。 「貴女の苦痛を少しでも和らげることが出来るなら、それは私の望みでもあります」 「赤屍さん…」 聖羅は瞳をうるうるさせて恋人を見上げた。 「そんなに心配してくれてたなんて……わ、分かりました! 私、マリーアさんのハーブティー飲んでみます!」 「それは良かった。では、早速明日私が買って来ましょう」 「はい! 有難うございます!」 「礼には及びませんよ」 もう一粒蜜柑を聖羅の口に入れて、赤屍が美しく微笑む。 勿論、ハーブティーには怪しい薬を混ぜる気満々だった。 |