約束の刻 | ナノ
 




再会の時は自分の想像以上に早く訪れた。



俺はこの事実を素直に喜んだ。



けど、すぐさま天国から地獄に叩き落とされるって誰が想像出来る?



これは、俺が地獄に叩き落とされるまでの、僅かな喜び。



地獄までのカウントダウンが、始まった。










6、邂逅










カイが同盟軍にやってきてから数日が経過していた。
その間何をしていたかというと、別段何をするわけでもなく。


――ただ、所持金を一切持っていなかったため、多少のアルバイトをしているのはまた別の話――


丁度昼食の時間から少し遅くなった頃。
カイはレストランに足を運んだ。
どこの世界も昼食時は混むらしく、少しずらして昼食を取るのがここ数日のカイの日課となっている。


(そういえばイリヤって今どこに行ってんのかな?)


そんなことを思いながら、ハイ・ヨーにランチを頼む。
料理対決では時としてとんでもない料理が出たりするが、基本的にレストランのメニューとしてはそこそこ美味い。

イリヤに本拠地に連れてきて貰ってから数日。
あれからイリヤの姿を見ていない。
帰ってきた日にシュウから呼び出しがあったようだが、その呼び出しが何であったのかはカイには見当も付かなかった。
そしてイリヤの姿が見えなくなると同時にシーナとルックまで消えていたから、カイは二人も同行したんだと思うしかなかった。


(和平交渉、も確かルカが死んでからだったはずだから……その前にバナーに行ってくれてると嬉しいんだけどなぁ)


英雄イベントはフリーイベントだから、イリヤがバナーの村へ向かわなければ発生しない。
そういえば、ゴードンの姿を本拠地でまだ見ていないような気がする。
彼を仲間にするには、貿易である程度稼いでからグレッグミンスターまで行かなければならないはず。
だとすれば、バナーの村には必ず行くはずだ。
ただ、それがいつになるかは皆目見当もつかないけれど。

ランチの乗ったトレーを手に、どこで食べようかと頭を巡らせれば、奥の方に見知った二つの姿。
思わず浮かぶ笑みをそのままに、テーブルへと足を向ける。


「や、一緒してもいい?」


テーブルの横へ立ってそう言うと、二対の瞳が見上げてくる。
へらっと笑ったまま手にしたトレーを指差せば、納得したように「あぁ」という声が返ってくる。


「おー、こいこい」
「お前も今から飯か」


ビクトールが手招きしたのを見てから、カイはテーブルにトレーを置き空いていた椅子に腰掛けた。
見れば二人のトレーの中身は既になく、雑談をしていたようだった。
手を合わせて、いただきますと小さく言うと、カイは目の前にある料理に手を付けた。
カイが食事を始めると、二人は暫くカイを見ていた。


「そういやお前、人捜ししてるって言ったよな?」
「言ったね」


ビクトールからの質問に、食事する手を止めずに答える。


「名前とか特徴は知らないのか?俺たちも知ってれば、そいつを見かけたら教えてやれるだろ?」


フリックからの提案に、カイは成る程、と感心した。
確かに、自分の捜し人の名前や特徴を教えていれば、本人が来たときに直ぐさま情報を入れてもらえる。
それに彼らは第一線で戦う傭兵でもある。
どこかへ行く機会はイリヤに次いで多いだろう。
しかし、カイの捜し人は誰もが知っているトランの英雄だ。
彼が現れれば嫌でも耳に入ってくる。
それ以前に、彼らが生きていると知ったら、真っ先に彼らの元へやってくることだろう。


「特徴、ねぇ。そんなの教えなくても見たらすぐわかるんだけどなぁ」


小さく呟いて肩を竦めてから、フォークに差したレタスを口の中に入れる。
ビクトールとフリックはカイの呟きが聞こえなかったのか、お互いに顔を見合わせて首を傾げていた。

そういえば、こうやって二人と話すのは始めてかもしれない。
顔は合わせていたけれど、上層部の方にいる彼らは何かと忙しそうだ。
こんな機会、滅多にない。


「ね、トランの英雄ってどんな奴だった?」
「あ?トランの英雄って、タギか?」
「どんなって言われてもな……」


急な話題転換に、これまた二人が顔を見合わせる。
三年前の解放戦争は有名な話だ。
だからこそ、噂が一人歩きしている感もある。


「噂とか、そんなんじゃなくてさ。一緒に戦った二人から見て、タギ・マクドールがどんな人間だったかを聞きたいんだ」


ついには食事の手を止め、真剣な表情で二人を見る。


カイが知っているタギは戦争に参加する前までの、タギ・マクドールだ。
テッドと共にウィンディに掴まっていた間、解放軍のリーダーを務めていたタギ・マクドールをカイは知らない。
この世界から離れていた間も。


だから、一緒に戦った二人に聞いてみたかったのかもしれない。
とはいえ、フリックは後半からの参戦。
しかも、ゲーム中ではしばらくリーダーを認めていなかったが。


「……そうだな、あいつは完璧なリーダーだった」


ややあってから、ぽつりとフリックが口を開いた。
その表情は何処か辛そうにも見て取れる。


「俺から言わせて貰えば、ガキでいることを許されなかったってとこだな」


それに続いてビクトールも口を開く。



三年前の戦争において、タギと言う人物がどういう存在だったか。

どれだけ重い運命を課せられていたかを、その事実を聞かされる。



二人が話すタギはカイの知らないタギだった。
そして再び押し寄せる後悔。
けれど、自分が選んだ道を引き返すことは出来ない。



過ぎ去った日々は返らない。

どうあがいても、過去を変えることは出来ないとわかっている――。



そう思ったとき、ふと頭をよぎった人物がいた。
ソウルイーターが喰らった人達の中にはグレミオがいた。
ゲーム中では、仲間を全て集めたか否かで彼のその後は変わっていたはずだ。
全ての仲間を集めれば、レックナートが門の紋章の力でグレミオを蘇らせてくれる。
この世界で、彼は一体どうなっているのか。










「グレミオは、どうなった……?」










言葉が、震えたのを感じた。

タギほどとは言えないが、彼には自分だって世話になった。
大切な家族の一人であることに変わりはない。
その彼は一体はどうなったのか。





生か



それとも、





死か。






フリックとビクトールは顔を見合わせた。
自分で聞いておきながら、その言葉を聞くのが怖くて思わず目を閉じる。



「グレミオは生きてるよ」



そんな時、第三者の声が聞こえてきた。




















イリヤが本拠地に戻って来ると、少しばかり騒ぎになった。
それはそうだろう。
行くときにはいなかったはずのトランの英雄を引き連れて戻ってきたのだから。


――あまり騒がれるのを良しとしない英雄に、同盟軍軍主と風使いは周囲に人を寄せ付けないオーラを放っていたため、辺り一帯ブリザードだったとか――


そのまま軍師に報告に行って、少し遅めの昼食でも、とレストランに向かったときだった。


「あ、フリックさんとビクトールさんがいるよ!」


先にレストランに入ったナナミが奥のテーブルにいる二人を見付けた。
聞き覚えのある名前に、キラリと英雄の目が光る。


「ならそっちに行こうか。マクドールさんもあの二人とは知り合いですよね?」


そんなことは知らない軍主が、久し振りに戦友と会ったなら話したいかな?といらぬお節介を回す。


「そうだね、あの二人には言いたいことが山のようにあるから、一緒させて貰おうか」


イリヤの申し出ににっこりと笑顔で応える英雄だが、その目は決して笑ってはいなかった。
しかも「山のように」と強調するということは、多分怒っている。
それも、かなり。


「俺、知らねーっと」
「あの二人にはいい薬なんじゃない?」


そんな英雄の後ろから我関せずを決め込もうとしている二人が、これから起きることを予想して溜め息を吐いた。
きっとレストランは血の雨を見ることになるだろう。
だが自分に飛び火しなければ、それは楽観的に見れる物だ。


「あ、二人の影でわからなかったけど、テッドさんも一緒なんだ」
「テッド?」


イリヤの言葉に首を傾げる。
その名前は、三年前に失われた親友の名。
例え別人であろうとも、その名前を聞く度にもういない親友を思い出すだろう。
思わず左手で右手を抑えてしまうのは、そこにある呪われた紋章が彼の忘れ形見だから。


「この間ちょっとした事故で知り合ったんですけど。人を探してるらしいんですよ」
「へぇ、そうなんだ。戦争中に人捜しだなんて、彼も大変なんだね」


そういうたわいもない会話を続けながらテーブルに近づいていくと、どうやら話題がトランの英雄のことであると気付いたらしい。
一気に周囲の気温が下がった気がするが、テーブルに着いている三人は気付いていない。
はらはらと英雄と三人を交互に見ていたイリヤとナナミが口を挟もうとすると、それは英雄の手で遮られる。
さて、どうしてやろうか、と英雄が考えたときだった。





「グレミオは、どうなった……?」





その言葉に、思わず硬直した。
どうなった、と言うからにはグレミオが生きていないことを想定しているのか。
グレミオの知り合い、もしくは捜し人がグレミオなのだろうか?

それにしては、いささかグレミオと年が離れすぎているようにも見える。
だが、あのグレミオだ。
どこでどんな知り合いがいるかわかったもんじゃない。

だから、思わず口に出していた。





「グレミオは生きてるよ」





その言葉に、テーブルにいる少年がこちらを見て固まったのが見えた。
彼は一体、何者だろうか。










坊っちゃん出番これだけ……っ(悔)
2006/05/30
2009/01/26 加筆修正



 
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