short | ナノ


記念日(AoT/エルヴィン)


attention
エルヴィン妻
ウォールマリア奪還後のお話 ※構造あり
オリキャラ(夢主兄)が出てきます。

*****

『っ!!』

ハッと目を開けて起き上がり、辺りを見回すと見慣れた自室にホッとする。ひどく怖い夢を見ていた気がするのだけれど、もう内容までは覚えてない。こんな時はいつだって、あの人の顔が見たくなる。あの人がウォールマリア奪還の為、シガンシナに向かったのは昨日の事だ。いつもなら、あの人が花束を用意して会いに来てくれるのをゆっくり待っているのだけれど、今日はどうしようもなく不安な気持ちに襲われた。

『行かなきゃ…』

ほとんど無意識にそう呟いて、私は寝間着のワンピースのまま馬に跨り手網を握っていた。それを見た屋敷の使用人たちの慌てたような悲鳴が後ろで聞こえるけれど、それにかまう余裕はない。ごめんなさい、今はどうしてもあの人に会いたいの!お説教は後にしてちょうだい!そのまま屋敷の外へ飛び出したはいいものの、乗馬での長旅なんてしたことがない。お腹が空いてきて、やっと自分のしている事が、いかに計画性のないものなのか思い知って恥ずかしくなった。寝間着のワンピースは太腿までたくし上げられているし、シーナで乗馬なんてしていたら目立つに決まってるじゃない。こんなのあの人が見たら怒るだろうな…と思いながら馬から降りる。そして、馬を引連れ、とりあえず歩いた。このままでは目的地に着くまでに何日かかるのだろうか…それでも引き返す気にはなれなかった。ここまで来たら、嫌でも調査兵団本部まで行ってあの人に会いに行ってやる。まだ壁外調査から帰ってきていなかったとしても、あの人の執務室で待たせてもらって、"おかえり"って言ってやるんだから。

初めてこんなに歩いた気がするわ。朝一で出てきたのに、もう太陽があんな高いところまできてる。

「お嬢様!!!」

上品だが迫力のある怒声にほぼ反射的に肩を竦めてしまう。振り返ると、そこには般若のような形相のメイド長がいた。

***
「身支度も済んでいないというのに、いったい何を考えていらっしゃったのか…まったく」
『ごめんなさい…どうしても早くあの人に会いたくて。』

馬車の中でかれこれ、1時間くらいはお説教をされていてもう耳にタコだわ。向かいに座ってるメイドに助けての意味を込めた視線を送っても苦笑いされるだけで、何の役にもたたない。

「聞いておりますか?お嬢様。」
『…聞いていますわ。』
「どこに行ったか見当がついていたから良かったものの、私共がお嬢様を見つけられなかったらどうしていたのですか。普段、聡明でいらっしゃるのにあの方の事になるといつもこう。もう少し、冷静になってくださいまし。」
『はぁい…』

何だかんだ言っても結局私に甘い彼女達は泊まりや身支度の準備を整えて馬車で迎えに来てくれているのだ。宿に泊まると言うのを断固拒否して私のわがままで、そのまま馬車を走らせた。そして、本部に着いたのは次の日の早朝。ずっと座っていたせいで腰と背中が痛いけど、やっと目的地に到着した事に達成感が湧き上がる。

『ちょっといいかしら。今回の壁外調査はもう終わったの?』
「っ……!は、はい。昨日、壁外調査に行っていた者が帰還いたしました。」

なんでここに憲兵団がいるのかは知らないけど、とりあえず目に付いた兵士に声をかけたら、もう帰ってきているとのこと。彼にお礼を告げて、あの人の執務室へ向かった。この煩いくらいの動悸は、あの人に会えるのが楽しみだからだろうか、それとも…

私は、やっと着いた執務室のドアを開ける時、手が震えていることもノックを忘れていることにも気づかなかった。

***

ドアを開ければそこにいたのは、あの人ではなく、兵士長であるリヴァイ様と分隊長のハンジ様、そして見たことの無い若い兵士が4人。

『っごめんなさい、私ったらノックも忘れて…恥ずかしいわ。』

声が震えているのは、何故?私の事を知っているリヴァイ様とハンジ様が驚いた顔をしてこちらを見ているのは何故?

「…や、やあ!名無し、随分早かったね。」
『何故だか、どうしてもあの人に会いたくて、1日馬車を走らせて来ましたの………ハンジ様、何故……部屋の…片付け、を?』

嫌な予感はしていた。それを予感で終わらせたくてここまで勢いで来たの。本当は憲兵が私を見た時の反応で感づいていたし、今この状況を見たら、気づかないわけが無い。それに、ハンジ様は「早かったね」とおっしゃっていたけれど、それは便りを出したということなの?壁外調査が終わってすぐに兵士の親族へ便りが送られる時なんて、ひとつしかない。

『うそ………リヴァイ様!嘘でしょ?!あの人は、きっと私の為に花束を用意してくれているだけよね?』

リヴァイ様は何も言わなかった。

***
L side

ハンジが名無しを部屋から連れ出すと、再び静寂が訪れた。アイツらが出ていったドアを暫く見ていたが、ハッとして部屋の片付けを再開する。

正直、名無しは今一番会いたくないやつだった。俺としたことが、なんと言葉をかけていいのかわからなかった。ただ、いつものように淡々と事実を述べればいいだけだ。それなのに…いざ、アイツを目の前にすると何も言えなかった。頭のいい名無しの事だから、きっと俺の態度やこの状況を見て色々悟っただろうが、いつも明るく笑顔を携えていたアイツの絶望したような顔には少々堪えた。いっその事、涙でも流してくれればいいものを。

「…リヴァイ兵長、先程の女性は?」

きっとガキども全員が思っていたことだろう。代表したようにジャンが尋ねてきた。

「…エルヴィンの嫁だ。」
「えっ」

ガキどもの顔が驚嘆に染まる。そうか、コイツらが来てから名無しが兵団を訪れたのはたった1回だったな。エルヴィンが片腕を無くしたという便りを読んで駆けつけていた。俺は、怒っている名無しをエルヴィンが宥めているところしか見ていないが、エルヴィンの前でだけ名無しは泣いたのだという。

「俺はこのまま地下室に行きたい。それに、海というものを見たいと言われたんだ。」

あの時、エルヴィンが新兵を引き連れて獣の巨人に特攻する前、俺に初めて語った"自分の夢と約束"

約束の方は誰との、なんて聞かなくてもわかった。名前を口にしてしまえば決心が鈍ると思ったのだろう。俺は選んだ。新兵とエルヴィンの心臓を捧げることを。それなのに、俺は獣の巨人を殺ることができなかったんだ。

「どんな人なんですか。」

アルミンの言葉に、誰のことか一瞬わからなかったが、すぐに合点がいった。

「…あぁ、名無しか。アイツはシーナでぬくぬくと暮らしている貴族の娘だ。聡明でいて、いつも明るく朗らか、時々見せる幼さが、可愛いんだとよ。」

前半は俺が初めて名無しに会った時の第一印象。後半はエルヴィンが酔うといつも言ってくる言葉だ。

「意外です…」
「エルヴィンが所帯を持っていたことか?」
「はい。職業柄、一緒にいれる時間も少ないですし、いつ別れが来るか…」
「エルヴィンの野郎もそう思って、ずるずると関係を続けていたのを痺れを切らした名無しがプロポーズをしたらしい。」
「お、男前ですね…名無しさん」
「それを未だに気にしているエルヴィンが結婚記念日に毎年、プロポーズをしているんだとよ。あぁ、そうか…今日はアイツらの結婚記念日か。」

俺の言葉を最後に再び無言になる。そこへ、バタバタと騒がしく駆け込んできたのは名無しに付き添っていたハンジだ。

「リ、リヴァイ!!エルヴィンが一命を取り留めたって!!!」

***

治療室に駆けつけてみれば、泣きじゃくる名無しが穏やかな寝顔のエルヴィンにすがり付いていた。

「ふー、全く無茶するねぇ君たちは。俺の可愛い妹をこんなに泣かせて。」
「ロン!!君ってやつは本当に天才だな!」
「当たり前だろ。何だいハンジ、君も泣いているのかい?」

奇跡だ。これは奇跡としか言いようがない。

「夜のうちに生き残った新兵がエルヴィンを連れて帰ってきてなかったらもう無理だったよ。君の判断だろ?リヴァイ。助かった。」
「いや…俺は、別に。」
「珍しく歯切れが悪いね。君がどう思ってるかなんて知ったこっちゃないけれど、医者として一人の命を救えたのは喜ばしいことだ。偶然にも俺がローゼに出張していて、偶然にも帰ってきた新兵と遭遇した。これは奇跡だよ。まあ、俺の腕が良かったんだけどね。」

ペラペラと話すこの優男はハンジのような人種でいけ好かないと思っていたが、何だかんだ腕利きの医者で助かった。

「お!エルヴィン、目を覚ましたか?」
「………」
「俺が誰だかわかるか?」
「…ロン。俺の義兄。」
「この指何本だ?」
「…7」
「ちょっと、眼球も見せてくれ…よし、問題ないな。」

意識を取り戻したがまだぼんやりしているエルヴィンをロンは素早く診療していく。そして、エルヴィンは目だけを名無しの方に向けた。

「名無し、愛している。これからも、ずっと俺の帰る場所でいてくれ。」
『っ〜〜!…はい!』

おいおいおい、この状況で毎年恒例のプロポーズかよ。新兵達が顔を真っ赤にしてるじゃねぇか。ハンジとロンが口笛を吹いて茶々を入れているのを全くもって気にしていない当事者2人は自分たちの世界を作っているどころか、キスをし始めたときには流石の俺も顔がひきつっていたと思う。まあ、最終的にいつから居たのか部屋の隅の方に控えていた名無しの屋敷のメイド長の咳払いで名無しとエルヴィンの肩がビクンと揺れた。

*****
after talk
進撃の巨人、エルヴィン夢でした。長くなりすぎて途中でカットしたので、あんま甘くないですね(笑)
アニメ、楽しみです♪






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