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Fascinate(a3/乙宮柊)


attention
若く見られがちだけど、実は左京さんよりも年上夢主のお話。
※ゲーム第10幕のネタバレがありますので、まだプレイしていない人はブラウザバック推奨です。

*****

『柊さーんっ!』
「なんだ…またお前か。」

俺の顔を覗き込むようにして現れたこいつは神出鬼没でよくわからない新生組の関係者。名前は…なんつったか、名無しだったか?まあ、何でもいいが、とにかく変なやつだ。

『相変わらず美人で男前ですねぇ』

美人で男前って何だよ。自分の容姿からして美人はわからないでもないが、男前とはどういう意味だ。

「お前は、相変わらず変だな。」
『変?!どこらへんが?』
「俺みたいなオジサンに付きまとってるところ。」
『柊さんってオジサンって感じ、しないですもん。』

こいつは変だ。それは、この前MANKAI寮に乗り込んだ時…

「もっと血反吐吐く思いでインプットして、書きまくれ。でなけりゃ、お前の物語は八角さんの描く世界には適わねぇ。脚本で役者の足引っ張んな。」

俺が皆木綴に思っていることをぶちまけている最中に後ろのドアを開けて満開寮の中に入ってきたのがこいつ。

『いづみちゃ……っ!!お名前は?』
「…乙宮柊」
『柊さん、あなたのこと好きになりました!』

絶句とはこの事だろうか。いきなり両手を取られて名前を聞かれたかと思えば、二言目には俺の事が好きだと言いやがる。勘弁してくれ。俺はこんな若ぇ女と色恋だのなんだしているような歳じゃないんだよ。

「えええ!!名無しちゃん?!この人、初代冬組リーダーで、今度のタイマンACTの相手だよ?」
『まぁ!初代リーダーなんて流石ね。柊さんが相手なら、きっと手強いけど、こっちだって負けられないわ!』
「名無しちゃん、柊さんと初対面…だよね?」
「いづみちゃん、恋に落ちるのは一瞬よ!」

幸夫の娘と名無しとかいう変な女が言い争っているうちに、寮を出た。勿論、初代組からは色々聞かれたが、こっちだってあんな女、知らねぇよ。それからというもの、ことある事に付きまとわれるようになった。

『どちらに行かれるんですか?』
「どこでもいいだろ。」
『では、気になるので着いていきますね!』
「…買い物に行くだけだ。」
『あら、柊さんもショッピングだったんですか。奇遇ですね、私もなんです!』

嫌な予感が的中し、その日もまた俺の劇団に戻るまで付きまとわれた。こうして、名無しとは本当に偶然かは怪しいが、何度も鉢合わせては、演劇を見に行ったり、買い物をしたり、食事をしたり…俺も何でこいつが着いてくるのを許しちまってるのかね。

「名無し、お前さんは普段何をやってる?俺なんかの追っかけしてて楽しいか?」

ふと思えば名無しという名前以外に何もこいつの事を知らない。今日もまた"偶然"同じカフェに入り、向かい合って座っている。

『え…』

いつもなら、うるさいくらいなのに思っていたような返事が来ないから飲んでいた珈琲のカップから名無しに視線を移した。

「なんだ、その顔は。」
『いや、だって…柊さんから私の事聞いてくれる事なんてなかったから、嬉しくて…』
「フッ…相変わらず変なやつだな。」

余りにも嬉しそうにはにかむもんだから、俺もつられて笑えば、もういつものアイツに戻る。

『柊さんの笑った顔かっこいいですねぇ。』
「はいはい。」
『それより、柊さんって本当に私の事知らなかったんですね。ちょっとショック。』
「そりゃあ聞いてなかったからな。」

さっきまで嬉しそうにしてやがったのに、頬を膨らませて分かりやすく拗ねる姿は子どもの様だった。

『え〜ドラマとか映画見ないんですか?私、この前主演女優賞取ったのに〜』

は?…ドラマ?映画?主演女優賞って言ったか?

「お前、女優だったのか…?」
『そうですよ!立花名無しって聞いたら大体の人が知ってるって答えますよ。柊さん、もう少し世間の話題に着いていかないと…!』
「立花名無し?!お前が?!」
『はい…って、知ってるんじゃないですか!』
「いや、あの立花名無しとお前がどうも結びつかなくて…」

立花名無し、日本を代表する大女優の1人だ。ヒール役や狂気じみた演技が他の役者より頭一つ分飛び抜けて上手い。ハリウッドの作品にも出演していて、バラエティにはあまり出演しないが、映画にドラマに引っ張りだこなあの大女優が、今俺の前で頬を膨らましているこいつ?世間からの立花名無しに対するイメージは、絶対的美しさや狂気、恐怖という言葉だろう。どう考えても目の前のこいつと結びつかない。

「ちょっと待て…お前、大学生くれぇじゃなかったのか?」
『え!私ってそんな若く見えるんですか?!柊さん、だから私を子ども扱いしてたんですね。私も結構オバサンっていう歳ですよ…。柊さんよりは身も心も若いですけどねぇ』
「人をじじい扱いすんな。…そうか、お前子どもじゃなかったんだな。」

*****

「紘、立花名無しと共演したことはないか?」
「立花さん?1度だけあるけど、俺は脇役だったし撮影日も違ったからまだ直接会ったことはないな。」

同業の紘ですら気づいてないとなると、やっぱり俺がおかしいんじゃなくて、あいつの仕事とプライベートのギャップがおかしいんだ。

「お前ら全員この前会ったぜ。」
「は?何を言ってるんだ。私は会ったことはない。」
「レニ、お前、いきなり俺の事が好きだとか言ってきた変な女、覚えてるか?」
「あぁ…髪の長い大学生くらいの歳の女性だろう。」
「あいつが、立花名無しだよ。」

稽古場にレニと紘と雄三の驚く声が響いた。

「なんだ、気づいてなかったのか。」
「…善は気づいていたのか?」
「あの時はわからなかったが、どうも見たことある気がしてな。丁度その日に彼女が出演していたドラマがやっていて、わかった。」

善は気づいていて、俺はあいつの事を気づかなかった…そのことに少し苛立ちを感じた自分に驚いた。へぇ、色恋だなんだはもうするような歳じゃないと思っていたが、案外悪くないのかもしれねぇ。

「あいつ、童顔だからメイクの技術もあるだろうが、役のイメージが先行して、そいつの人となりまで役と同じだと思い込ませるたぁ、随分いい演技するじゃねぇか。」
「なんだ、楽しそうだな。」
「まぁな。」

*****

『柊さんっ!!お久しぶりですね。柊さんのお芝居すごく力強くて、とってもかっこよかったです!!』

あの後、俺もあいつも忙しかったのか、再び顔を合わせたのはタイマンACT当日だった。

「あぁ。負けちまったがな。…そういえば、お前は何でここにいるんだ?立花ってことは監督の親戚か何かかい?」
『いづみちゃんから聞いてないですか?私は、幸夫の妹でいづみちゃんの叔母に当たりますね。』

こいつには驚かされてばかりだ。初代組は皆んなぽかんとしている。久しぶりにMANKAI劇場の舞台でかつての仲間と芝居をしたからか、気持ちが高ぶっていけねぇ。笑いが込み上げてくる。

「道理で胡散臭いし強引な訳だ。」
『ちょっと、柊さん!今までそんな事思ってたんですか?』

ほら、また歳にそぐわないぷりぷりとした怒り方をしてくる。名無しの頬をできる限り優しく撫でると、急にピタッと動きを止めて、あのカフェでの時と同じ変な顔をする。名無しの瞳に俺しか映っていない、今この瞬間は、俺を満たしてくれた。そして、そのままパクパクと何か言いたげに薄く開く唇に俺の唇を合わせた。

「悪ぃな。じじばばのラブシーン見せちまって。」

一瞬の静寂のあと、爆発でも起こったかのように騒がしくなる周囲の真ん中で、嬉しいのか恥ずかしいのか、よくわからない表情をしている名無しを愛おしく感じるのは、俺も世間様のようにいつのまにかこいつに魅了されちまったって事なんだろうな。

*****
after talk

柊さんの年齢が46〜50の間ということで、今までにないくらい大人な年齢の夢主でしたが、 中身はかなり幼いかんじになっちゃいました。ちなみに、名無しさんの年齢は30代〜40代前半くらいで設定していたので、結構広めです…笑
第3部後編が2021年とのことで、今からとっても楽しみです!柊さんのビジュとCV最高すぎて、もうメロメロなので、柊さんのカードも出てほしいです…!!






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