緋色の姫(降谷零) | ナノ


01


『秀くん!』

今年13になったばかりにしては色々と発育のいい少女が突進するような勢いで俺に抱きついてくる。しばらく俺の腹にぐりぐりと頭を擦り付けてから、くっついたまま顔だけをあげて涙を溜めた俺と同じ色の瞳で睨みつけてきた。

「どうした、真咲。」

髪を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細めて俺の手にすり寄ってくる猫みたいな姿が柄にもなく可愛いと思わせる。しかし、すぐに取り直してキッと睨みをきかせ、頬を膨らませるのだから、相当ご立腹なようだ。

『私を置いてアメリカに行っちゃうなんて酷いわ。』
「…俺も出来ることならお前と離れたくないが、俺はアメリカに行かなくてはならい。真実を暴く為に。」

彼女と同じように俺のアメリカ行きを反対している母親と対峙するときとは打って変わったような態度になってしまうのには目を瞑ってほしい。彼女は、俺の事が大好きで仕方がない可愛い妹なのだから。

『私も、連れてって…』
「…お前を危険な目に合わせたくない。わかってくれ。それに、母さんが許してくれないだろう。」
『…ママにも同じ事を言われたわ。でも、私だって秀くんが危険な事をするのは嫌よ。』

人形のように整った顔立ちをしている俺の妹。長い睫毛に縁取られた目を伏せれば、たちまちダイヤモンドのような雫が頬を滑り落ちる。

「泣かないでくれ真咲。」

俺は、昔から彼女の涙に弱かった。そして、その涙を拭ってやるのも俺の役目だった。これから真咲の涙を拭ってやるやつがいないとなると、アメリカに行くと固めた決心も多少揺らぐ。

『私は秀くんとずっと一緒にいたいもの。秀くんは違うの?』
「フッ、俺だって同じさ。だが、世の中そう上手くはいかない。俺やお前に恋人が出来たらどうするんだ?」

からかいの含んだ言葉に再び頬を膨らます彼女。

『意地悪ね。恋人なんて作っちゃ嫌。』
「全く、我が儘な妹だ。」

そうは言っても、真咲が彼氏を連れてきた日には寝込んでしまう自信がある。さらには、結婚を考えていると言われたら心臓が止まってしまうかもしれない。

『秀くんの暇な時でいいから、毎日電話してちょうだい。私は学校の授業中でもモデルの仕事中でも出るわ!』
「勉強も仕事もしっかりやってくれ。だが、毎日お前の声を聞かせてくれるなんて嬉しいよ。」

常に優先順位は俺の事な妹に思わず苦笑してしまうが、最終的には俺のアメリカ行きを認め、満面の笑みで抱きつく力を強くするところも愛おしいのだ。

*****

「赤井さん?どうかしたの?」

17年も前の思い出を呼び起こしているところに、坊やから声がかかる。これから行う作戦は、愛しい彼女をまた泣かせてしまうかもしれない。そんな俺の思いを露知らず、坊やは作戦会議を進めていく。全く侮れない坊やだ。

「何か気にかかる事でもあるの?」
「1つだけ…この作戦で泣かしてしまう女の事を考えていたのさ。」

俺の言葉に坊やは考え込むように目を伏せる。そして、子どものように(実際に子どもなのだが)無邪気な顔をして口を開いた。

「沢山女の人を泣かしてそうだけど、そんな赤井さんでも泣かないでほしい女の人がいるんだね。僕会ってみたいな〜。」
「中々酷いな。だが、坊やにはまだ早い。」

例え小学生といえど、男を彼女に紹介するのは御免だ。

…そして、赤井秀一は死んだ。

「まさか、ここまでとはな。」


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