緋色の姫(降谷零) | ナノ


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カランというベルの音とともに開いたドアに顔を向け、笑顔を作る。

「いらっしゃいませ。毛利先生がこの時間にいらっしゃるのはめずらしいですね。蘭さん達とご一緒しま……すか?」

毛利先生の後ろに隠れて見えなかったが、もう一人客がいたようで、その人物に気づいた時にはもう遅かった。サングラスをかけているが、その奥に潜んでいるであろう翡翠色を知っている。俺がその人物に気を取られていた時間はほんの3秒もなかっただろう。それでも不自然に間のあいた言葉に彼女は気がついたと思う。小さな名探偵もまたしかり。

「依頼人の方ですか?それなら、別のお席へご案内しますよ。」

「あぁ安室君、依頼の話は終わったから蘭達と一緒で構わない。」

心臓がうるさい。いつも通り笑顔をはりつけて蘭さん達の座るテーブル席に二人を案内してお冷やをとりに行く。そんな雑作もないことをしている間にも神経を研ぎすませてしまう。

「キャー!うそ!私すごくファンなんですよ!!」

蘭さんの興奮した声にやっぱりと思った。彼女の事を僕が気づかない訳がないんだ。

「お冷やです。」

毛利先生とサングラスを外した彼女の前にお冷やをおいて、普段ならそこで軽く会話をするところだが、今の俺にはその余裕がなかった。しかし、彼女の言葉に瞠目することになる。

『ありがとう。久しぶりね、透くん。毛利先生からお弟子さんの話を聞いた時にもしかしてと思ったのよ。』

どういうことだ。何故彼女が安室透を知っているんだ。

「安室さんとお姉さん知り合いだったの?」

返す言葉につまってしまった時、思わぬ救世主は小さな名探偵だった。否、彼は救世主なんかじゃない。

「お久しぶりですね、真咲さん。コナンくん、彼女は以前僕のクライアントだったんだ。」

とっさにごまかしたが、彼女は完全に僕が降谷零であることを確信しているはずだ。何故安室透を知っているのかということと一緒に口止めもしなくてはいけない。…だから止めてくれ、その不満げな表情を。コナンくんに怪しまれるだろ。この状況から逃げる為にバックルームに戻ったら、同僚の梓さんに詰め寄られた。

「安室さん何で教えてくれなかったんですか?!私が真咲ちゃんのファンだって知ってましたよね?!」

あまりの勢いに少し体を引いてしまいながら名案を思いつく。

「すみません、顧客情報の秘守義務があったので…お詫びとは言いませんが、代わりにあのテーブルの接客お願い出来ませんか?」

「いいんですか!ありがとうございます、安室さん!」

*****

落ち着け…平常心を保つんだ、俺。

ポーカーフェイスは得意なんだ。だが、あんなあからさまに有名人である如月真咲の視線を独占していたら、流石に毛利先生達も何かあると勘ぐるだろう。いかに自分が顔に出さなくても、彼女があれじゃあ関係性があるとバレてしまう。俺のポーカーフェイスが崩せないとわかってて周りのギャラリーから固めてくなんて、本当にあの人には適わないな。

「安室さんって真咲ちゃんとお付き合いとかしてたんですか?」

小声で話しかけてきた梓さんに苦笑する。

「まさか!僕みたいな見習いが有名モデルさんとお付き合いなんてできませんよ。」

「でも、さっきからずっと熱い視線を安室さんに向けてますよ!もしかしたら安室さんのことが好きなのかも!!流石ですね!!」

それがありえないから困ってるんだ。

「いえ、そんなことはないと思いますが…。僕が何か失礼を働いてしまって彼女は怒らせてしまったのかもしれないんですよ。」

できれば関わりたくないという事を遠回しに伝えたつもりだったが、梓さんのことだ、今から謝りに行きましょうとか言われるかもしれないと、気づいたのはその言葉を言われる1秒前だった。


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